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異常気象時代のサバイバル

No.45

2015.12.02

吉野正敏

海洋は気候を記憶する

海洋性気候と大陸性気候

 日本は典型的な海洋性気候の地域にある。気温年較差、すなわち、最暖月の月平均気温から最寒月の月平均気温を引いた値は大陸性気候の地域に比較して小さい。太陽高度は北半球ならば6月の夏至に最も高いから、太陽から地球に入ってくる熱量は夏至に最も大きいが地表面付近の気温が最も高くなるのは、少し遅れ、7月になる。水は熱容量が大きく、海面では波などで海面下に深く熱が運ばれるので、海面付近の気温が最も高くなるのは、地表面付近の気温よりさらに遅れる。最暖月はしたがって8月となる。
 これと対象的に太陽高度が最も低い冬至は北半球では12月だが、最寒月は大陸性気候地域では1月、海洋性気候地域では遅れて2月になる。以上のような説明は高校の教科書にも書いてある。
 この年変化の型は、地域的には季節風(モンスーン)の影響などで雲がよく発生するところでは崩れる。南アジアがその好例で、6~7月に夏の季節風が始まると厚い雲に覆われて雨季となる。したがって、最暖月は季節風が始まる前の5月となる。地球規模でみれば例外的な地域である。しかし、現地で生活する人びとにとっては非常に大切な気温の季節変化である。例えば、日本の新年度が始まるのが4月だから、南アジアの国にある会社・官庁などの仕事場で働くために新しく赴任した人が、熱帯の気候に慣れる暇もなく5月の高温と灼熱の太陽にさらされ、体調を崩すことがある。気温の年変化(月月の変化)の型は人間の生活環境としても大切なのである。
 上記のような海洋性気候地域における年変化型は、別の表現をすれば、“海洋は気候を1ヶ月間より長く記憶している”となろう。 

レジームシフト、あるいは、ジャンプ

 水産業では大漁・不漁が数十年の時間スケールで変動することが約30年前に発見され、これが海洋変動・気候変動と関連すると指摘された(川崎ほか、2007;川崎、2009)。レジームシフトは気候ジャンプとも言われ、数十年ないし十数年で気候の平均状態が変化することがわかってきた。例えば、北アメリカの樹木の年輪幅を分析して、1600年から1975年までの北太平洋指数を推定復元した研究がある。ここで、北太平洋指数とは北緯30~65°、東経160~西経140°に囲まれる水域における(面積加重平均した)12月~翌年5月の海面気圧の偏差値である。この指数はアリュウシャン低気圧の強弱の指数とされる。アリュウシャン低気圧は、冬の日本付近の主要な気圧配置である「西高東低」の低気圧である。


(図1)気候ジャンプの例。北アメリカにおける樹木の年輪から復元した「北太平洋指数」 の1600年~1975年の変化。9回のジャンプを示す。
(川崎、2009、その他の原図を1部吉野加筆)
(表1)レジームシフト(気候ジャンプ)の発生年

期間*
(年)

(年数)
期間平均の
北太平洋指数*
発生年*
(年)
全球規模の1-3月海水温
からみた発生年**

1625まで13.01626
1626~16957010.01696
1696~17616612.21762
1762~18024111.11803
1803~18272512.51828
1828~18502310.81851
1851~18873713.11888
1888~19243712.019251925-1926
1925~19482410.019491942-1943
1949~19732512.01957-1958
-   -1970-1971
-   -1988-1989

*川崎(2009)によるD’Arrigo et al.の図を吉野が読みとった。
**安中・花輪、(2007)による。

 (表1)を見ると全球規模の1-3月では、1920年代以来20世紀の終わりまでに5回シフト(ジャンプ)が発生した。その頻度も多い。言い換えれば、一つステージ(位相)の期間(年数)は13年~18年と短い。アリュウシャン海域より全球海域の方が広いし、また、1~3月という真冬だけに限っているので、北太平洋指数より短い年数という統計結果になったのであろう。

数十年の“海洋-気候”系の変動:海洋の記憶

上記の(図1)や(表1)からわかるように、“海洋-気候”系には十数年ないし数十年のシフトあるいは、ジャンプがある。かなり、位相(年数)には長短がある。この現象で現在わかっていることを箇条書きにすると、次のとおりである。
(1)低温期の気温の低下量は、一般的には、高緯度ほど大である。
(2)気温のジャンプは高緯度ほど大のことが多い。
(3)低緯度の高温期は1890年代、1950年代、2000年代に多く認められる。
(4)緯度とジャンプとの関係は1910年代(1913年)の場合最も明瞭(大)、1980年代(1988年)の場合は中、1940年代(1946年)の場合は小であった。
(5)(図1)でもわかるように、小さい位相の期間に出る年による大きな値は、前後の大きな位相の期間に出る年による小さな値より大きいことがある。この現象は人間生活には特に重要である。例えば、“温暖化した時代でも冷夏の年があり、その程度は、温暖化以前の比較的涼しかった夏の時代の中の猛暑年の夏より低温になる”ということである。冬の例でいえば、“暖冬で少雪になれた時代(位相)でも豪雪の年があり、その量は、寒い冬が続く時代(位相)の少雪年の量より大である”ということである。

日本列島では

 日本列島内の地域差は重要である。特に太平洋側と日本海側では暖流・寒流の影響の差がある。いま、詳しく述べる紙面のゆとりがないので、いずれ別の機会にゆずりたい。今年の冬はエル・ニーニョの影響が100年に2~3番目に強く、暖冬と言われている。海水温は雲の量や分布に影響し、これがさらに大気循環の状態に影響する。しかし、豪雪が発生しないとは、統計的にも、地域的にもけっして言えない。注意が必要である。
 記憶に無いような海洋の変動が起きることはないが、われわれは、すべてを知っているわけではない。これがサバイバル問題の泣き所である。

[文献]
川崎 健(2009):イワシと気候変動。岩波新書、198+13ページ。
谷津明彦・高橋素光(2013):レジームシフトと資源変動―川崎 健(1928~)。水産海洋研究、77、23-28.
川崎 健・花輪公雄・谷口 旭・二平 章(2007):レジーム・シフト―気候変動と生物資源管理―。成山堂、東京、216ページ。
川崎 健(2009):イワシと気候変動。岩波新書(新赤版)1192、岩波書店、東京、198+11ページ。
安中さやか・花輪公雄(2007):過去100年間の全球海面水温場に出現したレジーム・シフト。「川崎ほか編(2007):レジーム・シフト、成山堂、東京」
谷津明彦・高橋素光(2013):レジームシフトと資源変動。水産海洋研究、77、23-28.


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