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異常気象時代のサバイバル

No.5

2014.03.19

吉野正敏

異常積雪と交通

異常積雪の影響

 この連続エッセイ[02]では、2014年2月8日と14日に日本を襲った異常積雪を取り上げ、その実態とサバイバルとの関連を述べた。そこでは、交通機関すなわち、航空・鉄道・バス・自動車への影響が大きかったことを指摘した。特に高速道路の閉鎖・道路の除雪作業などに関連した新しい問題が生じ、被害発生のきっかけが複雑化していることに言及した。
 そして、連続エッセイ[03]では2月14日の積雪とその影響を特に集落孤立と農業被害について述べた。今回は、異常積雪被害の続報として、交通の問題を取り上げたい。

歩行・自転車・オートバイなどと異常積雪

 昔は徒歩で雪道を歩くしか手段がなかった。カンジキなどは日本の積雪地域にみられる特有な履物で、日本海側の豪雪地帯における積雪深と積雪密度に対応して発達した。
 スキー、橇(そり)など、積雪表面を滑る交通手段はその機能を有効に生かせる欧米の積雪地域で発達した。19世紀から20世紀には、これらの手段・知識が国際的にも国内的にも比較検討され、積雪の科学、その応用として進展した。これらは、「雪と生活文化の関わり」として、地域的にも、歴史的にも興味ある課題である。サバイバルの極限ではその知識は生かされるかもしれないが今回は省略し、ここではサバイバルの出発点に関係する事柄をまとめておきたい。
 今日でも地域社会・末端の集落単位の通信連絡、いわゆる近所付き合いを含めて、徒歩は欠かせない。郵便・宅配便の配達作業にとっても最重要である。積雪深の局地的変化、いわゆる吹きだまり、地吹雪のひどい所は経験的にしかとらえようがない。居住者とその地域に長年の関わりを持つ人々の問題である。しかも、この特異な局地的積雪が、短時間に形成されたのが、今回の災害の一つの特徴である。
 雪道を困難しながら、自転車を押してゆく人、オートバイを無理して乗ってゆこうとする人を見ることがある。これはやめた方がよい。当人にとってはやむをえぬ事情もあろうが、第三者として見ると、“雪を侮っている”としか言いようがない。雪道の未経験・無知を見せびらかすようなものである。サバイバルの議論の対象外とされよう。

自動車交通と異常積雪

 自動車交通は最もよく検討しておかねばならない。まず、自動車の構造そのものが深雪地帯・強風雪地帯の走行を充分には考えていないことである。地球規模で見れば、日本のような積雪地帯はごく一部分だからである。また、最近の地球温暖化の結果と思われる短時間に多量な積雪が起こることを想定していない。そして地方道などでさえ、道路設計において、上記のような吹きだまりが微地形の影響でできることを想定していない。
 吹きだまりに自動車が突っ込むと動けなくなる。そしてマフラーの位置より積雪が深くなると排気不能となり、しかも自動車内の人は外に出られないと、車中の人は中毒死に至る。今回の2月14日の場合、山梨県内を走っていた長距離トラックの或る運転者の言うところでは、“アッという間にタイヤが埋まる位の積雪にはまった。そのまま、25時間動けなかった。”と言う状況であった。
 道路の除雪はさらに問題が多い。高速道路、国道、都道府県道、市町村道、私道で使う除雪車の大きさ・形式が異なるばかりでなく、それらに対する燃料補給車両、さらには除雪車が除雪作業を開始する前にしなければならない「立往生している自動車の撤去作業」などさまざまなことが、場所によって異なる。猛吹雪の中か降雪は止んでいるか、夜間か日中かで対応方針は変わる。また、高速道路から市町村道に至るまでの除雪作戦の計画・指揮・命令・実行系統が異なる。今回、高速道路の通行止めのタイミングが遅れて東名自動車道路の大渋滞発生が問題になったが、“上位の道路から止めればよい”というものではない。国道の通行、市町村道などによる迂回可能な連絡道路の情報の提供がなければならない。また、現地では迂回路に関する表示板の設置など具体的な誘導体制を短時間のうちに整え、実行しなければならない。これがなければ、土地勘の無い長距離運転者は道を失いウロウロするばかりである。その地域にとって関係のない自動車は速やかにその地域から出て行かせるのが鉄則である。この迂回路決定・表示板設置・誘導情報伝達などはもし地方警察の役割だとすれば、都道府県や市町村の担当部署との連携はどうなるのか。地域的にも、時間的にも、気象学・気候学の現状から言っても、気象庁の予報・予知可能なスケールの限界外のマイクロスケール・ローカルスケールの問題ではある。だからと言って、“マニュアルは作れません”ではすまされないだろう。

サプライ・チェーンとの関係

 日本国内のサプライ・チェーンに関しては筆者の専門外だが、日本国内の異常積雪でトラックによる長距離輸送が不可能になった場合に発生する問題をそれなりに種々考えてみたい。
 今回のように、東名や中央道などの高速道路、関東西部から北部の山岳地帯を経て隣接地域に通じる国道の多数箇所が不通になり、20時間以上もこれらが機能を失った場合、例えば東北地方と近畿地方を結ぶ連絡路はどうなるのか、シミュレーションで結果はすぐに出るだろう。しかし、これをどう伝達するのか。ITの時代、長距離運転者は大まかなことは情報を得られるだろうが、1台1台事情が異なる。運転者は今運転しているトラックの性能は熟知しているだろうが、豪雪に対する設計配慮までは知らないのが普通であろう。また、自分の周囲の降雪・積雪の状況判断・経験など、積み荷が何か、などにもよる。
 日本列島の形・大山脈の走行はまことに不都合にできている。関東地方を経由するか、日本海岸を経由するかのわずか2本の大動脈しかない。この2本の大動脈が不具合になった場合、途中で連絡する路線を活用しなければならない。鉄道で言えばローカル線であるが、大雪による災害時に、この活用が出来るか否かが日本のサプライ・チェーンを生かせるかどうかの鍵である。
 日本の気候区分は幾つかの研究がある。そのどれによっても、まず冬の積雪地域である日本海側と、積雪が少ない(最深積雪50cm以下)の太平洋側に区分される。その境界線は仙台付近(ほぼ北緯38度)から関東地方北部・西部の山地、中部地方・近畿地方の山地を経て、山陰・山陽の境界を走る。今回の異常積雪災害も大きく見るとこの境界線の1部で発生した。3~4日連続する異常現象は長年の状況であるこの境界線付近で特に発達することが多い。異常な湿った南の気流と北からの強い寒気がぶつかりやすいからである。
 問題は上記の大動脈を繋ぐローカル線は、地形の制約でこの境界線を横切ることになり、異常積雪の被害を避けられないことである。今回、14日の夜から、碓井バイパスで約250台の自動車が立往生したが、このような被害は、国道・都道府県道など、サプライ・チェーンを支えるこのような路線で起こると思われる。


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