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異常気象時代のサバイバル

No.43

2015.11.04

吉野正敏

稲田の乾燥 ― モンスーンアジアのサバイバル ―

日照りと風

 秋の詩情については前回の連続エッセイ[42]で述べた。ヨーロッパやアメリカ、いや、 ほとんど世界中の人たちが知らない季節観・季節感を、日本人を含めたモンスーンアジアの中の温帯地域の人びとは味わい、楽しんでいる。
 モンスーンアジアとは、季節によって相反する風系、すなわちモンスーン(季節風)が卓越するアジアの1部で、米作を主体とするアジア型の地域社会のことである。季節風は雨季をもたらし、その豊かな雨がイネ、特に水稲の栽培を可能にする。つまり、湿潤な気候地域である。もし、十分な雨が降らない異常な気候になれば社会はサバイバルの限界を超える。これは教科書的にいえば、「モンスーンアジア ―湿潤な気候地域― 水稲栽培(陸稲栽培でも一定の雨は必要である)」であって、間違った思考ではない。しかし、極度に発展した水利用社会は、100%水に依存しているから、ちょっとした水不足による社会のバランスの崩れは、その社会の急激な崩壊となる。アンコール文明が一夜にして崩壊したのはその実例といわれる。
 ところが、私は最近、「水稲栽培に乾燥条件が必要である」ことを観察し、実感している。すなわち、雨季は乾季と対になっており、雨季の期間中にも乾燥した日が必要なのである。その乾燥は日照りと風によってもたらされる。 

奥羽山脈東側の例から

 日本の東北地方は中緯度の偏西風帯にあって、それにほぼ直交するように南北に走っている。奥羽山脈の東側はこの偏西風帯の風下側になるので、ここの上空に風下波動が形成される。2~3の実例は連続エッセイ「暮らしの中のバイオクリマ[43]」、「異常気象時代のサバイバル[23]」で紹介した。下降気流の部分は特に乾燥し、下降気流が地面に降りてきたところは地上でも強い風が吹く。
 (写真1)は1998年10月25日の14時頃に岩手県岩手郡雫石町横欠付近で撮影した。画面の左が西方向、すなわち、北を向いて撮影している。(写真1)(上)は遠方に岩手山が見え近いところの上空には小さな積雲があり、その形は左右対称でない。すなわち、いわゆる高気圧圏内の局地的対流セルで発生する好晴積雲ではなく、画面で左から右に向かう西風の波動の波頭にできる雲(雲型の分類では積雲であろうが)である。個々の積雲は左側が輪郭は明瞭で、右側が不明瞭であり、帽子型の積雲は水平でない。しかし、これまでのエッセイで紹介した場合ほど強い偏西風でなく、風下波動も強く大きなものではない。

(写真1)

(上)西風による風下波動の波頭の積雲。
(中)雫石環状線道路から0.3km西方の横欠のカラマツの偏形樹。
(下)同上付近の農家の西側に見られる防風の板囲い・樹列。

(写真1)(中)は横欠(よこかけ)の小高い丘の上にあるカラマツの偏形樹(偏形度4)で強い西風環境の存在を示している。樹の左側、すなわち風上側には枝が無い。樹の右側、すなわち風下方向だけ枝は正常に延びている。(写真1)(下)は付近の農家の西側で、板囲いの防風垣が低くあり、その外側(西側)には下枝を掃った樹列があり、西風を弱めている。樹列の高さも住宅の形に対応しており、西風を弱めることに気を使っていることがわかる。
 (写真1)を撮影した日のアメダス観測による毎時の値は(表1)のとおりである。

(表1)1998年10月25日、8時~20時、雫石における風と日照の毎時観測値(気象庁による)

時刻風速(m/s)風向日照時間(h)

80静穏0.2
92W0.8
106W1.0
115WNW1.0
125WSW1.0
136W1.0
145WSW1.0
154WSW0.6
165WSW0.5
175W0.1
184WSW0.0
195W0.0
203W0.0

風速は10時頃から日没頃まで5~6m/s、日照時間は10時から14時まで毎時1時間すなわち快晴で太陽が雲に隠れることはなかった。これらの風や日照の状態は収穫時期のイネの乾燥に最良の条件である。また、前夜も風速は1m/sで、微風が吹いていた。これは地面で露が結ばないことを意味する。やはりプラスの乾燥条件を提供している。(写真2)はハセ掛けに、刈り取ったイネを見事にかけて乾燥している風景である。この写真を撮った約20 年前にはめずらしい風景ではなかった。昨今少なくはなったが、まだ、完全になくなっ てはいない。最初に書いたように、天日乾燥の方が味はよいのである。


(写真2)刈り取り後のイネを干す“はぜ架け”。
(写真1の近くにて、同日、吉野撮影。以上、不許複製)

強い西風

雫石におけるアメダス観測値(1976年11月~2015年10月)の39年間の日最大風速の記録によると、第1位から第10位中、第8位がWSWであるが他はすべてWであった。発生するのは2月・3月・4月がほとんどである。風速は第1位が17 m/s、第10位が13.1 m/sであった。この結果からみると、卓越するのは西風であるが、最も強い日最大風速といっても13~17 m/sで、日本の中の台風常習地域などの強風と比較すれば弱いことがわかる。
 地球温暖化でいろいろ気象状態が変わってきている。では、この付近の西風はどうだろうか。イネの成育・収穫などに関わる大問題である。長期間の記録がない風速については確かな回答がむずかしい。一つ、私が最近、気になっている事実を紹介しておきたい。(表2)は比較的に長い風速の観測結果、すなわち、1961年からの観測結果がある盛岡気象台における風向別の年最大風速を統計した結果である。

(表2)盛岡気象台における(A)風向別年最大風速が出た年数、および(B)風向別年最大風速の平均(気象庁のデータを吉野集計)

風向1961-1980年1981-2000年2001-2015年
(A)(B)(A)(B)(A)(B)

N1年17.0m/s1年15.0m/s6年14.6m/s
NNW0214.3112.7
NW000
WNW715.4212.3313.5
W616.9815.40
WSW415.4214.4112.3
SW0215.1116.6
SSW0117.10
S219.1113.8215.4
SSE0112.4113.8

合計20年20年15年
平均16.8m/s14.4m/s14.1m/s

 興味あるのは、(1)2000年まではWの年数が最も多い。(2)WNW~W~WSWは次第に減少し2001年以降の15年激減した。(3)2001年以降、Wは0になった。(4)2001年以降の15年間、Nが増加した。(4)20年間くらいの時間スケール毎にみると、年最大風速は弱くなる傾向にある。
 上記の結果の説明、および、盛岡の傾向がどのくらいの地域的広がりであてはまるのか、今後の研究課題である。盛岡市の都市化の影響か、地球温暖化の影響(上空の偏西風の弱まりを含めての影響)か、気象台周辺の建物・植生の変化、観測位置や測器の変更なども検討しなければならない。


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