異常気象時代のサバイバル
No.11
2014.06.11
吉野正敏
東北日本の山林火災 ― 岩手県の場合
東北地方の山林火災
日本の東北地方では大きな山林火災(林野火災)が、春しばしば発生する。林野面積が広く、山に入った人のタバコの火、ゴミの焼却、野焼きなどからの失火の機会が多いと言う原因もあろう。しかし気象的な条件がその背景と言っても差しつかえない。中緯度の東アジアにおける気圧配置と東北地方の緯度、しかも北太平洋西部と言う位置がからんでいる。そして岩手県は本州北端で太平洋側にある。
春の半ば、ユーラシア大陸から東進してくる移動性高気圧の速度が遅い場合、好天が続くことがある。この高気圧の背面(後面、または西の部分とも言う)が本州北部を覆う位置になると、東北地方の気温は上昇し、乾燥する。理由は大陸起源の高気圧だから乾いている。そうして、高気圧の西の部分はより緯度の低い地方からやって来る南寄りの風だから高温である。こうなると、火災発生の危険は非常に高い。
岩手県の大きな山林火災
最近30年間で大きな山林火災の場合を(表1)に示す。
(表1)岩手県における最近30年間の大きな山林火災* |
年 | 地域 | 焼失面積 | 出火原因・被災状況など |
1983年4月27日 | 久慈市・下閉伊郡など11市町村 | 約45,800ha | 死者1名、焼失住家・非住家47棟 |
1987年4月 | 釜石市東前町 | 約392ha | 焼失住家・非住家7棟 |
1997年5月 | 紫波町・石鳥谷町 | 約304ha | ― |
1998年4月 | 軽来町 | 約141ha | ― |
2008年4月4~7日 | 釜石市唐丹町 | 約151ha | 7日鎮圧、15日鎮火、原因は失火 |
2014年4月 | 盛岡市玉山区渋民 | 159ha** | 原因はゴミの野外焼却 (別に詳述する) |
* データは岩手日報による。吉野作表。 **発表機関・発表時期によってかなりの差がある。 |
この表から最もはっきりしているのは、百数十ha以上の面積を焼失した大きな山林火災は4月にほとんどが発生している事実である。これは最初に述べたような気圧配置が4月に発生しやすいこと、東北地方の林野は若葉が出る前で燃え代としては乾いていること、しかも、長い冬から人びとは解放されてハイキング・山菜取りなどで山に入り失火の機会が増すこと、などが理由であろう。
2014年4月の場合
典型的な場合が2014年4月27日から29日にかけて発生した。発生した場所は( 図1)に示す。

(図1)2014年4月27日~29日の盛岡市玉山区渋民で発生した山林火災地域。
(岩手日報、2014年4月29日版による)
次に時間を追って状況を記録してみよう。
4月27日 ― | 13時火災発生、原因は家庭ゴミの野外焼却と言われるが詳細不明。 | ||||||||||
13時23分、盛岡市が県防災ヘリコプター派遣を要請。 | |||||||||||
13時30分、県が盛岡市に福島県防災ヘリコプターを派遣すると連絡。 | |||||||||||
19時10分、34世帯、100人に避難指示。 | |||||||||||
22時までに玉山地区山林のみで100ha以上焼失と推定された。この他、花巻市の住家、盛岡市内の物置小屋18m2 、花巻市休耕田で枯れ草約13a焼失。 | |||||||||||
4月28日 ― | 朝から福島・秋田・宮城・青森の県ヘリコプター、陸自ヘリコプター8機活動。消防・警察・自衛隊の450人が消火活動。 | ||||||||||
13時から岩手県のヘリコプター「ひめかみ」活動。 | |||||||||||
4月29日 ― | 12時、出火から47時間で玉山地区の山林火災を鎮圧した。3日間で消火活動・消火援助活動に参加した述べ人数・車両などは(速報値で);
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であった。2014年4月は乾燥注意報が出なかったのはわずか5日間で、異常な乾燥状態であった。焼失面積は約159ha、鎮火は5月5日、推定損害額は1億5千万円と発表された。
2014年5月の場合
4月に連続して、5月も高温・乾燥状態の毎日であった。
5月14日 ― | 7時35分、山田町荒川地区で山林火災発生。県下全域に乾燥注意報・強風注意報が発令されていた。岩手・青森・宮城3県と自衛隊のヘリコプター7機で消火活動。消防団員121人、消防車輌23輌。 |
15時09分、山田町で最大瞬間風速12.4m/sを観測。強風で西側に延焼。 | |
18時までに約20haを焼失した。 | |
5月15日 ― | 5時、ヘリコプター10機で散水消火活動開始。山田町から宮古市に延焼。 |
10時、岩手町川口の崩(くずれ)地区へ延焼。焼失面積は約2.7ha。 | |
17時までに宮古市総焼失面積は約22ha。 | |
18時、消防署員・消防団員270人、川口消防署員・消防団員173人。 | |
5月16日 ― | 9時30分、宮古消防本部は山田町荒川地区の鎮圧宣言。 |
10時、岩手町川口崩地区の鎮圧を宣言。焼失面積は約2.7ha。 | |
5月19日 ― | 山田町荒川地区の鎮火宣言。発生から鎮圧を経て鎮火宣言が出るまで5日間も燃え続けた。 |
5月30日 ― | 12時55分、岩手町沼宮内、葛巻町葛巻の境界付近で出火、西側に延焼。 |
18時までに50~60haを焼失。乾燥注意報は発令中。岩手・宮城・山形3県のヘリ、自衛隊のヘリ3機の計6機、消防署員・消防団員約350人が活動。 | |
5月31日 ― | 自衛隊大型へり2機が加わわり、8機で消火活動。 |
山林火災から学ぶ課題
以上に述べてきた山林火災の記録から学ぶ課題をまとめておこう。
(1) | 火災の現場が山奥で急斜面、道が無いから車輌が入れない。ヘリコプターによる空中消火活動に頼るしかない。この新体制の確立、新消火戦術の検討。 |
(2) | ヘリコプターの整備日程、近県・自衛隊との支援体制の検討・調整を山林火災の季節変化を考慮して行う。 |
(3) | 消防署員・消防団員の定員割れ、すなわち、人口減少による必要人数の確保困難がある。その不足傾向がひどくなりつつある。山林火災が多発する地域では高齢化現象は特に著しい。人材不足をどう乗り切るか。 |
(4) | 山林火災対策はサバイバルを乗り切る対策にきわめて類似している。 |