異常気象時代のサバイバル
No.3
2014.02.19
吉野正敏
雪害を生きる
1月・2月の寒さと雪
月平均気温で言うと、日本では2月が1月より低い地点が多い。『これは日本が海洋性気候の地域にあるからである。たとえば、ユーラシア大陸の内陸の地域では大陸性気候のため、1月が最低で2月より低い。』これは気候学のイロハのイである。
しかし、旬別にみると、日本では1月下旬が最も寒く、2月上旬より低い地点が多い。気温は節分の頃幾分上昇するのが例年の状態である。今年は、1年の内で最も寒い二十四節気の“大寒”は1月20日であった。その後、2月に入って、“立春”の頃、いったん気温は上昇するが、また“寒のもどり”を経験する。低温な日々を過ごす。
雪は日本海側と大平洋側のコントラストが余りにも明らかなので、日を追っての変化よりも局地的な変化に人々の関心が高い。しかし、今回のエッセイのテーマの南岸低気圧による降雪は東京では2月中旬に集中しており、非常に明確である。
雪の話題で欠かせないのが、降雪量・積雪量(積雪深)・降水量などの用語(言葉)である。降雪とは文字通り雪が降る現象を言う。積雪とは地上に積っている雪の状態で積雪の深さを積雪量とも積雪深とも言う。ところで、最近のメディアは、「降雪量は何cm」という。これははっきり言って間違っている。もし、言葉を正しく使うならば、「降る雪が積ったら何cm」あるいは、「積雪量は何cm」と言わねばならない。その理由は、降水量とは液体として降る雨の量と、固体として降る雪・あられ・雹などは溶かして合計した液体の水の量を言う。気象庁内でも、気候表などでは正しく降水量と積雪量(積雪深)を使っているが、予報文関連では、私見では正しくない表現をしているようである。
2014年2月の大雪の原因・特徴
(図1)(上)は2014年2月8日15時の地上天気図を示す。中心示度990ヘクトパスカルの低気圧が本州の南岸(太平洋側)に沿って北東~東北東方向に進んでいる。この低気圧は翌日の9日15時には984ヘクトパスカルにまで下降し発達して東北地方の三陸海岸の東方海上に進んだ。東海道や関東地方の雪は止み晴れの天気となった。
(図1) (上)2014年2月8日15時の天気図 (下)2014年2月15日15時の天気図
ちょうど1週間後の2月15日15時の天気図を(図1)(下)に示す。低気圧の中心は関東地方にあり、北東方向に進んでいる。中心の位置が8日の場合よりやや北にずれているが、北海道から千島列島付近が高気圧の支配下にあって、大陸からの寒気が低気圧の高緯度側を支配している状況は8日の場合とまったく同じである。
以前、この連続エッセイで東アジアの春3月頃の天気変化として三寒四温について触れたが、1週間の天気周期は古くから経験則として知られている。たとえば2008年1月の中旬・下旬、中国では、1月10~16日、18~22日、25~28日、31日~2月2日に豪雪となった。約1週間の間隔で4回発生した。このことは連続エッセイでもすでに紹介したし、『極端化する気候と生活』(吉野、古今書院、2013)にもまとめた。この中国の場合、降雪の持続時間が長く、1時間降雪量も大きかったのが特徴で、結果として積雪量が大となった。このような降り方だと交通機関など日常生活への影響が特に深刻になる。中国でも、最近数十年の全国平均の降雪日数は減少してきているが、このような豪雪は多くなり、雪による深刻な被害は大きくなっている。日本を含め、東アジア全体の傾向と思う。2014年2月の日本の南岸低気圧がもたらした降雪・積雪による被害もその1例と考えてよかろう。
2014年2月の場合、特に強調されたのは以下の現象である。すなわち、
(1) 影響を受けた地域範囲が広かった。関東・甲信越を中心として、名古屋付近・近畿・東海の広範囲に及んだ。
(2) 強風をともなった。低気圧の中心示度が低く、発達したので、強風が吹いた。
(3) 湿った雪だったので、重量があった。除雪を困難にし、建造物(屋根への加重、送電線への着雪)への被害が大となった。
(4) 積雪に不慣れな住民・自動車運転者が多く、積雪があり凍結した屋根の雪下ろし、道路の除雪、歩行、自動車運転の経験不足による事故が多発した。
以下に、積雪の実情と被害について少し詳しく紹介したい。
2014年2月の積雪とそれによる被害
これまで知られている積雪の状況は(表1)のとおりである。
(表1)2014年2月の主要地点における積雪の状況 |
地点 | 積雪量 2月15日 | 過去の最大 |
甲府 | 114cm | 49cm |
河口湖 | 143 | 59 |
軽井沢 | 99 | 72 |
草津 | 145 | 162(2014年2月16日) |
前橋 | 73 | 37 |
熊谷 | 62 | 45 |
秩父 | 98 | 58 |
東京都心 | 27 | 46(1883年2月) 30(1969年3月) 27(2014年2月9日) |
横浜 | 26 | 30(1954年1月24日) |
仙台 | 35 | 41 |
(気象庁による) |
この表の値によると多数の地点で、過去の最大観測値を上回る積雪量を記録した。次に今回の大雪による被害の性質を項目別に指摘しておきたい。
(1) 高波:風が強かったので港湾施設・沿岸小型漁船などへの影響大であった。
(2) 路面凍結:路上の積雪が日中融解し、夜間に凍結する。路面も翌朝凍結する。比較的日中は気温が上昇し、夜間は零下になる本州南岸地域で、この状態が起こりやすい。
(3) 交通機関:鉄道・航空・バス・自動車など、交通機関への影響は極めて大きく、深刻であった。これだけをいずれ再論したい。
(4) 高速道路:2月14日、静岡県内の東名上り線で40km、約10時間、神奈川県内の東名下り線で約50km、数時間渋滞・通行不能状態が発生した。通行止めにするタイミングの判断ミスといわれる。道路管理者側は日本の物流の大動脈を通行止めにすることを考慮したというが、どこのどの官庁なり行政単位なりがどのように決定するのか、今後、至急対処すべき重大な課題を提示してくれた。すなわち、緊急な除雪作業に加えて、渋滞発生後、レッカー車・ガソリン車・運転者への水や食料の配布車の手配、および、地方道への迂回路指示標識の設置など、関係する行政機関・官署が緊急に連携を保ちつつ現場で対応、実施しなければならない。その体制作りを急がねばならない。
(5) 除雪作業:屋根の雪下ろし・道路の除雪など、個人の力に頼らざるを得ない。しかし、高齢者の一人暮らし家庭が多くなっていることを考慮に入れ対策を立てる必要がある。結局は地域社会が助け合うより、よい方法はない。特に、豪雪災害の場合、2014年2月15~16日の山梨県・東京都西部の例のように、その集落全体が孤立状態になり、各家庭間の往来すら不可能になるので、問題解決は簡単でない。
(6) 日常生活:新聞配達の遅れ、生活必需品の購入困難、コンビニ・スーパーなどへの商品配送の遅れなどが目立った。通勤・通学者への影響も大きい。
(7) 死者・重軽傷者数:本州の南岸を北東進する低気圧が原因だから影響は全国に及び、2月8日も15日も合計千数百人に達した。詳しい統計を未入手だが1963年1月、2013年1月の場合より多数であった。これについても、いずれ再論したい。サバイバルの最たる現象であるから。