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温暖化と生きる

No.26

2011.01.05

吉野正敏

白銀のクリスマスと正月 ―2010年12月末からの豪雪―

2010年12月~2011年1月の豪雪

 前回の連続エッセイ[25]では寒波再来と題して、2010年12月の初め、度重なる寒波が低温や豪雪を日本にもたらしたことを述べた。そして、北半球の対流圏中層では、日本・中国を含む東アジア(東経130-140°)、ヨーロッパ(東経10-20°)、北アメリカ東部(西経70-80°)において定常波、言い換えれば、定常的な偏西風波動が低緯度方向に大きく振れ、等圧線(あるいは気圧の等高線)で見れば気圧の谷になっている。この気圧の谷の西側では極地方から寒冷な空気が南下しやすい。言い換えれば、この地域の対流圏下層では寒波がよく発生する。
 逆に、偏西風の波動が高緯度方向に振れた地域は気圧の尾根になっており、温暖な空気が北上している。したがって、東アジア・ヨーロッパ・合衆国東部で大寒波が襲来したからといって、北半球全体が冷えたわけではない。このことを前回も強調した。
 しかしながら、東アジアの日本に住むわれわれにとって、この低温・豪雪の影響を見逃すわけにはゆかない。しかも、新しい課題をいくつももたらしている。それを以下に少し考えてみたい。

福島県西部の12月末の豪雪被害

 2010年暮れの12月24日、クリスマス・イブに本州の日本海側の豪雪地帯で大雪が降った。この冬3回目の寒波の吹き出しである。日本海で発生・発達する低気圧の中心が少し南西方向にずれていたが、これも温暖化の影響かと考えられる。この低気圧の西側に吹き込む北西の気流のため、北九州・山陰の日本海岸地方でも雪が降った。この北西の気流は東シナ海までも広がり、九州南部までこの地域としては大雪をもたらした。この低気圧が本州を横切り、太平洋にでて、西高東低の気圧配置型になったが、高気圧・低気圧とも中心位置は通常より低緯度方向にずれており、いわゆる“寒波・豪雪をともなう西高東低型”であった。
 中部地方・東北地方の豪雪・多雪地域の南限は南~南東に張り出した。2010年12月25日には福島県の西部で激しい降雪と異常な積雪深(積雪量)となった。この太平洋側への張り出しは、単に寒波が強く吹き出したというような簡単なものではなかったようである。衛星画像でわかるが、西南西から東北東に走る雲帯が東北地方南部にあり、この雪雲が活発で、短時間に大きな降雪量をもたらした。この雲帯の発生要因は、いまのところ不明ではあるが、新潟県沖の暖流域の海面温度と気温の差が大きかったために発生し活発化し、偏西風によって全体が東に流れたのではなかろうかと、筆者は推定している。
 山間地における豪雪は観測地点が少ないので、詳細が不明なことが多い。時間降雪量・時間積雪深が今回の豪雪では非常に大きかったのが特徴である。それが次に述べる国道49号線における交通関係の問題を招いた。

国道49号線の積雪 ―2010年12月24~26日―

 今回の豪雪は24日夜から始まった。片側1車線の国道49号線で25日21時ころ、新潟方向にむかっていた1台の大型トラックが上り坂でスリップし、上下線を塞ぐように停止した。そのため後続の車が通行不可能となり、約300台が立ち往生した。西会津町野沢と会津坂下町の約12kmが通行止めになった。25日22時ころ、西会津町の積雪深は、約80cmであった。最終的には合計で350台に達したともいわれるが、26日23時30分までに全車両の中にいた人が救出された。最初の事故発生から26時間を経過していた。
 なぜ、このように時間がかかったか。異常気象対応としては正に異常な結果である。これを解明し、今後の豪雪対策の立案に参考にして欲しいというのが筆者の願いである。その際、考慮しなければならない点をここでまとめておきたい。

1)国道が通行不可能になって、何分後に高速道路への誘導の掲示・指導、短区間の町村道の迂回措置を行ったか。積雪深は局地性が強いため、初期対策として、特に有効である。
2)除雪作業の予定・計画・見とうしは国土交通省郡山事務所が立てたかも知れないが、地元の行政機関との連携・連絡は何分後にどのように行なわれたか。現地付近の住民による援助・救援活動、積雪の局地性に対する経験・知見を生かすのに重要である。
3)陸上自衛隊の派遣要請を知事は何時に行ったか。自衛隊が現地で除雪作業を開始したのは26日19時30分といわれ、余りに時間がかかり過ぎている。地震・洪水には対応が十分でも、豪雪に対する準備が十分ではなかったのではないか。しかも、その遠因が温暖化にもしあるとすれば、新しい課題である。
4)後続の自動車に情報をどの機関がどのように何時ころ伝達したか。交通規制ばかりでなく、交通情報伝達(気象情報を含め)の態勢はどのようにとられていたか。
5)積雪期間初期・中期・末期などにおける国道を走る自動車のチェーン着装・滑り止め・冬タイヤ着装などの割合(%)、絶対数(今回のように1台でも問題の原因となる)などを調査してあったか。
6)国道を走る自動車の運転者の雪道運転の経験度は年年低下している。遠隔地(暖地)からの自動車が多くなり、温暖化による積雪・降雪頻度が少なくなり運転者の経験不足が増加している。これまで、このような統計はないであろうが、今冬でも、まだ類似の災害は起きるであろう。ぜひ緊急調査してほしい。
7)新聞報道によると、郡山国道事務所の職員が26日朝、自動車の車内で一夜を明かした運転者らに食料を配り、車への給油作業などを行ったという。どのような内容だったのか詳細はわからないが、これまで、列車が立ち往生した場合など付近の住民が乗客へ炊き出しをしたなどの記録はあるが、自動車へ給油をした話は、外国でも国内でも初めて聞いた。まことに適切な計らいだったと思う。長時間連続してヒーターを使えばバッテリーはあがり、ラジオも聞けなくなる。携帯電話も電池がなくなれば使えなくなる。今回、凍死者はもちろん体調をおとした人の数はきわめて少なかったのが救いであった。積雪に閉じ込められた自動車への充電作業などの計画も詳しく検討しておいていただきたい。

積雪の局地性

 積雪量(積雪深)の分布は極めて、局地性に富む。地形・建造物などの影響が大きい。特に地形の影響評価は非常にむずかしい。マイクロスケール・メソスケール・マクロスケールごとに考えねばならない。数m、数十m、数百mのスケールそれぞれについて評価しなければならない。地元の運転者は経験でこれらの影響を知っているが、長距離トラック・バスなどの運転手でもその土地になれていなければ地形の影響評価はむずかしい。アメリカ合衆国のハイウェイでも、道路上の吹き溜まりに突っ込んで立ち往生・事故になる場合が毎年発生している。
 国道事務所が対象として考えるべきスケール、現地の行政機関が責任をもつべきスケール、運転者個人の経験や準備すべき事柄が関係するスケールは、降雪・積雪・雪の堆積スケールで非常に異なる。これが地震・洪水などの災害と異なる特色である。ふぶき、なだれ、落雪、路面凍結なども考慮にいれて、スケール別に詳細な対策の立案を望みたい。

豪雪災害と温暖化

 今、この原稿を書いているところへ、『鳥取県を中心とした山陰の海岸地帯が豪雪に見舞われ、米子市で12月31日に積雪深は85cm、1月1日、国道9号線でタンクローリーが立ち往生し、朝9時には約600台の自動車が国道を埋めつくした。一時は1,000台にもなった。JRのラッセル車まで、米子市内で脱線して動けなくなった』というニュースが飛び込んできた。この山陰海岸の豪雪は海岸線に沿って東西に帯状に延びる雪雲のために発生したと思われる。気象衛星の画面にも、この雲帯がみられた。テレビで放映される天気図の範囲では、きわめて典型的な西高東低であるが、細かくみると山陰沖の雪雲の帯のところで等圧線がクニャとなり低気圧の領域が少し飛び出すようになっていた。すなわち、この部分で海面の温度が多少高いことを意味している。日本海岸で、暖流の影響が強かったとすれば、ラ・ニーニャのときの気温と水温の差に及ぼす温暖化の影響を検討すべきであろう。いずれにしても、上記の福島県西部の場合と似ている。そして、山陰地方の場合、程度が強くなっていることに驚いている。
 今回は触れなかったが、豪雪では停電の問題がある。復旧に時間がかかり、一方では、一人暮らしの高齢者が増え、日常生活用品の電化が進み、停電問題は深刻化する傾向にある。

 クリスマス・イブから正月にかけての豪雪は、“われわれの課題”という大きな“お年玉”となった。


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