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温暖化と生きる

No.49

2011.11.24

吉野正敏

タイの洪水(2)

タイの雨季

 東南アジアから南アジアにかけた地域の南西モンスーンは5月から始まる。その開始日はタイ・ミャンマーが早く、次第に西に移動して、インド西部で遅く、その間1-2ヶ月も差がある。南西の風だから、西の方から早く開始するのではないかと思うが、逆である。東の方が早い。
 その理由は、モンスーントラフ(モンスーンを誘い込む気圧の谷)が、ベンガル湾の東付近に5月ころに形成され、南西の風が吹き込むような風系になり、この状態が次第に西進するからである。1、2月はまだ北東モンスーンと呼ばれる北東の気流が発達する。シベリアに形成されている高気圧が春になって次第に弱まるとこの北東の気流も弱まる。3月、4月はその交代期である。
 2011年、5月から始まった雨季は異常であった。前回のこの連続エッセイ[48]では洪水の原因である降雨の状況についてはあまり紹介しなかったので、今回、この異常降雨について、詳しく述べたい。

2011年5月‐10月の異常天候

 (図1)は2011年の5月から9月までの異常天候の分布を示す。タイを中心とした東南アジアでは異常多雨か異常低温のマークが5ヶ月継続して現れている。10月についてはまだデータが集まっていないが、まだ傾向は同じようであろう。
 この異常多雨・異常低温の範囲はけっして広くはない。東南アジア・南アジアの中でも限られた範囲であるが、数か月も継続したのが異常の一つの特徴である。例えば、ヨーロッパでは7月異常低温であったが、9月には地中海を中心にして南ヨーロッパの広い範囲で異常高温が明瞭である。


(図1)2011年5月~9月の異常天候発生地点の分布(気象庁地球環境・海洋部による)

 タイを中心にした比較的狭い範囲の異常低温地域のすぐ高緯度側、すなわち中国の南部には狭い地域に異常少雨のマークがある。このことは、平年ならばこの地域に降っている雨域が2011年には約10-15°南にずれていたことを推定させる。南西季節風の北限が少し低緯度にずれていたためと考えられる。

タイの多雨地域

 まず、北部タイの状態を見よう。この図には16地点における2011年5月1日から10月31日までの合計降水量mm(水色)と、その平年値mm(赤色)を示した。


(図2)北部タイの16地点における2011年5月1日~10月31日の合計降水量mm(水色)とその平年値mm(赤色)の比較
(Dept. of Meteorology, Thailandによる)

 全部の地点で平年値を大きく上回っていた。特に、左から5番目(Nan),6番目(Lanphun),7番目(Lanpang)の地点では、平年の160-190%にも達していたことがわかる。その他、平年値の大きいところほど、2011年の値は大であった傾向がうかがわれる。2011年の雨季の総降水量は多い地点で1,800mm、半数以上の地点で1,500mmを超えた。

 次にタイ中央部の8地点の5月1日から10月31日までの合計降水量mm(水色)と、その平年値mm(赤色)を(図3)に示した。


(図3)中央部タイの8地点における2011年5月1日~10月31日の合計降水量mm(水色)とその平年値mm(赤色)の比較
((Dept. of Meteorology, Thailandによる)

 8地点中、2地点では平年値より少なかったが、この地域としては比較的平年値の大きい地点(図の右から1番目、2番目、4番目など)では2011年の雨季の総降水量は平年の140%にもたっした。
 この他、図は示さなかったが東北タイのメコン川流域ではかなり多雨で洪水も発生した。
 前回のエッセイ[48]で紹介したように、アユタヤや、バンコク周辺の洪水は、北部タイの異常多雨が原因でその水が流出して、チャオプラヤ川に集中南下した。途中のダムの不的確な管理、水防・揚排水計画・実施などの能力の不十分な把握、それらに対する政治圧力・介入、住民活動などが大きな原因と考えられることについても述べた。これら、いわば人災的要素がチャオプラヤ川下流部の洪水の大きな原因の一つで、特に、アユタヤ・バンコク地域の雨量が異常に多量ではなかった。

気象学的問題

 以下の問題が考えられる。
1)5月に来た熱帯低気圧の地球温暖化との関係。モンスーントラフとの関係。
2)河川勾配とモンスーンによる降雨流出との関係。
3)2011年の長期予報では5月―10月の多雨を予報できなかった。その理由。


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