スマートフォンサイトを見る

温暖化と生きる

No.31

2011.03.16

吉野正敏

局地風は強くなるか

温暖化と風

 “地球が温暖化すると風は強くなりますか、弱くなりますか”という質問をよく受ける。台風に関しては、発生個数は少なくなるが発生した台風は強く発達するという数値実験の結果があり、近年の傾向をみると、経験的にもこれが確認できるようである。しかし、これは半球規模でみた場合である。台風のような熱帯低気圧は発生し、成長し、消滅するまで、かなり長い距離を、時間をかけて移動する。発生する場所も経路も消滅する場所も細かくみると変化することが想定される。したがって、ある1地点で考えるとどうなるか、台風の襲来回数は増えるか減るか、強いものがくるか弱いものが来るか、わからない。
 温帯低気圧の場合はどうなるか。日本周辺での状態は、残念ながら答えられる状況ではない。春、日本海で発生・発達する温帯低気圧や、土佐沖で発生・発達する温帯低気圧の季節が少し早まったようである。これまでは3月に吹いた春一番が2月に吹く年が多いなど、温暖化の影響と考えられる。
 関東平野の空ッ風など、冬の季節風に起因する局地風は、冬の季節風がシベリアの温暖化によって弱まるから、吹く回数は減少し、強さも弱まるだろう。比良八荒・六甲おろしなど関西で冬に吹く局地風も減少し弱まるであろう。伊吹おろし・鈴鹿おろしなど濃尾平野周辺で吹く冬の局地風も、やはり、回数は減り、強さは弱くなるだろう。これらの地域に住む人たちには大きな問題である。
 今回は、この局地的な風について述べたい。

局地風とは

 局地風とは、局地的に、つまり比較的に狭い地域において、特定の気圧配置のときに吹く。非常に強く、乾いている風で、耕地の表面の土壌粒子を吹き飛ばす。いわゆる風食を起こす。砂塵をまきあげ、空を赤くすることもある。
  日本の局地風は冬の季節風によって発生するもの、春先の強い低気圧によって発生するもの、夏から秋にかけて台風が来たときに発生するものなどがほとんどである。本州の太平洋側は、上空の偏西風が本州の脊梁山脈を越した風下に位置し、山からの“おろし”風として山麓の平野部で発達する。人びとは風上方向にある山の名をつけて呼び、例えば、 関東平野の人びとは“榛名おろし”・“赤城おろし”・“筑波おろし”などと呼ぶ。


(写真1)奥羽山脈にかかるフェーン壁(風枕)と山岳波(風下波動)による雲
(2010年11月11日 9時45分、岩手県雫石町にて吉野撮影、転載不可)

(図1)写真1の説明スケッチ

 東北地方で奥羽山脈はほぼ南北に走り、上空の西風に直交する。その西風は、日本海側では奥羽山脈の風上斜面を上昇し、太平洋側では風下斜面を吹き降りる。この時、いわゆるフェーン現象により、風上斜面では雲を生じ降水(降雨・降雪)をもたらし、風下斜面では乾燥した強い風となって吹き降りる。フェーンによって生じた山頂部の雲の峰は上空の西風のため、生クリームのケーキの上を、へらでなでたように滑らかではっきりしている。写真のAの文字の部分である。さらにその上空の青空とのコントラストは明瞭で、だれが見てもすぐわかる。関東地方ならば冬の季節風下でこのような雲は沼田付近からよくみえる。関西ならば、鈴鹿おろし・比叡おろし・六甲おろしなどが吹くとき、よくみられる。
 このAの部分の雲の堤をドイツ語ではフェーン・マウアー(フェーンの壁)、英語ではフェーン・ウォールとよぶ。カナダではロッキー山脈のフェーンをシヌックというので、シヌック・アーチとよぶ。日本語では“風枕(かざまくら)”という。昔、まげを結っていた人が寝るとき、髪がくずれないように、木の箱(断面は三角のことが多い)の上に綿をいれた白い膨らんだ袋状のものを着けた枕があった。山脈をその箱の部分、雲をその上にのる白い袋の部分とみればまことに優雅な表現である。しかし、日本全国でこの言葉があるわけではない。
 とにかく、この雲が風上の山脈の稜線部分を覆ったら、やがて乾いた強い風が吹いてくると思わねばならない。クロアチアのアドリア海沿岸の漁師はこのような局地風が吹き始める予報に役立てている。


(図2)日本海側から太平洋側までの東西断面におけるフェーン壁・山岳波の模式図

 (図2)はよりよく理解していただくように、上記の(写真1)、(図1)のときの日本海側から太平洋側に至る東西の断面における風の鉛直断面を書いた。A、Bの部分の位置関係がわかるであろう。山岳波または風下波動の部分は上空の風の状態により、第2波・第3波とできる。波長は風が強いとき長く、弱いとき小さい。普通は5~35kmである。言い換えれば、Bの位置は上空の風が強いとき風下に移動する((写真1)(図1)(図2)の位置より、画面上で右に移動する)。

温暖化でどうなるか

 一般論では最初に書いたように、地球が温暖化すれば冬の季節風は弱まるだろうから、このような冬の季節風に起因する局地風の強さは弱まり、吹く期間(冬の始まりから終わりまで)は短くなるであろう。
 しかし、そう簡単ではない。その理由をまとめておこう。(1)温暖化しても冬の季節風が吹く冬型気圧配置が全くなくなるわけではない。また、(2)冬型気圧配置のさらにまたある時間帯の西風が吹く時間、その温度・風速などの条件と、山脈の海抜高度・南北に走る山脈の長さなどの条件がフェーン壁をつくり、風下波動を起こす条件に合致しなければならない。(3)よく吹く局地風とはいえ、このような条件は実際にはあまり頻度高くでるものではない。(4)現在の温暖化の範囲では、その出現頻度にまで、影響があるかどうかわからない。以上である。
 (写真1)を撮影した2010年11月は、一般的に東日本・西日本は平年より低い気温であった。北日本は冬型気圧配置が持続せず気温はやや高めであった。しかし、(写真1)を撮影したような場合(時間帯)は、北日本ではむしろ多かったような気がする。この11日は9時ころから17時ころまで、状況に多少の動きはあったが、このような局地風が継続し、雲がみられた。今後、統計的な詳しい調査・研究が必要であろう。


温暖化と生きる

archivesアーカイブ

健康気象アドバイザー認定講座

お天気レシピ

PC用サイトを見る

Contactお問合せ

PC用サイトを見る

気象情報Weather Information
健康予報BioWeather
生気象学についてAbout BioWeather
コラムColumn

スマートフォンサイトを見る

ページ上部へ
Page
Top

Menu