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温暖化と生きる

No.8

2010.04.21

吉野正敏

気温の乱高下

三寒四温はむかしの話?

 今年、3月、4月は、テレビ・ラジオ・新聞などがよく伝えた。『夏のように暑くなったり、冬のように寒くなったり、気温が乱高下します。。。。』 私は、この“乱高下”の表現を好まない。『株価は乱高下することがあるだろう。しかし、気温は“乱”高下しない。確かに、気温の日日変化が異常に大きかったが。』この日日変化の大きさは、高気圧・低気圧の去来にともない、あるいは、寒気の吹き出しにともないきまるもので、一定の周期、言いかえれば、間隔でそれが発生するわけである。だから、それがやたらに“乱れる”ことはない。
 むかしから、春には“三寒四温”と言う言葉があった。3日間寒い期間があって、4日間暖かい期間が続き、次第に暖かさが増してゆく。これが経験則であった。統計的にも、天気変化の平均は3.5ないし3.7日だから、よくあっている。
 それが、二寒三温になったり、四寒五温になったり、めちゃくちゃに相前後して出現すると言うなら、“乱”高下だろうが、それははっきりしていない。もっとも、三寒四温は、日最高気温、日最低気温、日平均気温のどれでいうのか、すべてでいうのか、はっきりはしていない。昨日から今日、今日から明日への変動の周期性のことであるが。
 今年の早春、その幅は大きかったが、周期がどれほど乱れていたのか、まだ、統計的な研究はないようである。

温帯低気圧の発生頻度:最近35年間の変動

 温帯低気圧の発生頻度・発達の度合いが最近変化してきたようだということは、この連続エッセイで何回か、指摘してきた。『急激に発達する回数が増えてきたのではないか』というのが私の感じである。
 日本付近の温帯低気圧は、日本海を北東~東進する日本海低気圧型、本州の太平洋側を北東進する南岸低気圧型、本州の日本海側と太平洋側を同時に北東・東北東・東に進む二つ玉低気圧型の三つに分類される。このそれぞれについて、日本列島の周辺を通過した低気圧で980hPa以下に異常発達した日数を1971年から2006年まで調べた結果は、(図1)のとおりである。


(図1)3月における異常発達した温帯低気圧の出現日数の経年変化(1971~2005年)。
(a)日本海低気圧型、(b)南岸低気圧型、(c)二つ玉低気圧型。破線は5年の移動平均。
(大和田道雄・中川由雅・大和田春雄、2010、愛知教育大研究報告(自然科学)、59による)

 これをみると、興味あることが幾つかわかる。まず、日本海低気圧型はきわめて僅かだが日数は増加しているようである。しかし、南岸低気圧型はほとんど変化が認められない。これに対し、二つ玉低気圧型は1990年ころ以降をみると増加している。しかし、35年間を全貌すればはっきりした傾向はでていない。
 この結論は、この図にしめされた3月の状況であることを留意しておく必要がある。それは、3月は春の指標となる月だからである。いいかえれば、地球温暖化の影響がはっきりでやすい月である。そして1990年以降。。。。という点に留意したい。このような統計を低気圧の深さ(中心示度)別にすると、さらに状況がはっきりしてくるかも知れない。

温帯低気圧の発生頻度:月別の変化

 (図2)は、同じく温帯低気圧が980hPa以下に発達した日数の9月~4月の月変化を調査した結果である。この図から興味のある点は次のとおりである。
 先ず、日本海低気圧型では12月が極大で、真冬の1月・2月より出現回数が多い。次いで南岸低気圧だが、1~3月に多いが、めだった極大ではない。ところが、二つ玉低気圧では2月・3月に多く、3月の極大は特筆しなければならない。このような3型のそれぞれで秋から冬を経て春までの期間に極大のでる時期が異なり、また、その回数に大きな差があるのは、それぞれの型の原因が異なることを暗示している。


(図2)異常発達した温帯低気圧の月別出現頻度。
(a)日本海低気圧型、(b)南岸低気圧型、(c)二つ玉低気圧型。
(出典は図1と同じ)

 11月になって上空の寒帯ジェットが南下し始めるが、日本海の海面水温はまだ暖候季の影響が残っており、東アジアにおける気圧の谷は深まる。そのため、急激な低気圧の発生・発達が生じる。地中海のジェノア湾低気圧の発生、すなわち、地中海沿岸のスペイン・フランス・イタリア・クロアチア・ギリシャなどの地域で、秋に集中豪雨をもたらす低気圧が発生・発達するのと似ている。
 3月の二つ玉低気圧の極大は、晩秋のほうが多い。これは、上の場合と同じ状態の他に、亜熱帯(中緯度)高圧帯の拡大と、寒気の南下のために、低気圧の発生・発達のチャンスが加わるため、このような、明瞭な極大が見られるようになるのであろう。

爆弾低気圧

 短時間に急速に発達する低気圧を爆弾低気圧と呼ぶ。1980年ころから外国の研究者がこう名付けて論文を発表し始めた。すなわち、サンダース(1980)の『爆弾の総観的・力学的気候学』がさきがけである。その後、日本でも学界ばかりでなく、新聞などにも使われたが、昨今、爆弾のイメージは、中近東の紛争や、自爆テロにつながり、よろしくない。あまり爆弾低気圧の名称は使われないようだ。私も使いたくない。
 名称はともかく、この現象が注目され始めたのが1980年代である。地球温暖化が国際的に政府間で取り上げられるようになった時代に一致していることは、偶然とはいえないように思う。地球温暖化にともなう熱帯海域の海面水温の上昇、それにともなう上昇気流の強化、子午面循環の活発化、亜熱帯(中緯度)高圧帯の発達・領域の拡大・位置の移動などが関連し、その上空の北方を流れる亜熱帯ジェット・寒帯ジェットの位置を変え、周期的に南下する北極気団・寒帯気団と、低緯度側の亜熱帯気団・熱帯気団・赤道気団の間に熱交換を盛んにし、温帯低気圧を発生・発達させる。

日本の位置と上空の気圧の谷

 日本が位置する東経130-150度は北半球のスケールでみると、上空の高緯度からのびる谷の部分で、上空のジェット気流の強風軸はちょうど北緯30-50度にあることが多い。また、日本の低緯度方向は暖流、黒潮が北上してきて、温帯低気圧が発生・発達するのに好条件を備えている。これらが、地球温暖化によって活発化すれば、上空の谷は深くなり、短時間に急激に発生・発達した温帯低気圧が本州の両側、日本海側と太平洋側を、同時に北東~東北東に向かって進むことになる。北海道の北東~東の海上で一つに合体することが多く、最後にはアリューシャン低気圧となる。

“乱”高下

 このような一連の変化が行われるのだから、毎回全く同じ時間ではないが、“乱”と決め付けるような変化過程ではない。かならず、ある範囲の時間(日数)内で行われる過程である。気温変化の幅もある範囲内である。


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