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温暖化と生きる

No.47

2011.10.26

吉野正敏

温暖化と生物季節

温暖化と季節学の研究

 地球温暖化は動物や植物の季節的な活動にどのような影響をおよぼしているか。あるいは反対に、動植物の季節現象を通して温暖化はどう捉えられているか。われわれは大きな関心をもっている。
 この連続エッセイでも、春のサクラの開花や、秋のサクラの異常開花などを書いてきた。これは比較的最近の温暖化のスピードが速い時代のことだが、十年・数十年、場合によっては数百年の時間スケールで温暖化・寒冷化と季節現象の関係は歴史的に調べられてきた。温度計が発明される以前からの観測記録が生かされる点では季節現象の過去の記録は有益である。中国では3000年以上、日本では奈良・平安時代以来の記録がある。しかし、問題は、観測法の違い、観測者の科学的知見の差、あるいは、観測の対象となる生物個体あるいは集団の進化、など、長年の間には変化することである。
 けれども、気象測器で観測した値の方が客観的で精度が高いとは、必ずしも言えない。温度計でも、水銀温度計、アルコール温度計、サーミスター温度計、放射温度計などなどさまざまあり、それぞれ異なる特性を持つ。例えば、遅れが異なるので測定される気温の値も異なる。気象観測所が同じ町の中で移転することがあるし、昔は郊外だった地点が時代の経過とともに町の中になってしまうこともある。これをどう評価するのか。気象観測値だけでなく、季節学が大切な理由の一つである。
 今回は気象官署で観測した結果を使う研究以外、すなわち、生物学的、植物学的、生態 学的あるいは作物学的な季節現象の研究結果から温暖化の影響を考えてみたい。

最近の2-3の研究例

1)英国における植物・鳥類の例
 英国のオックスフォードシャーにおける1954-1990年の557種の植物の開花日の記録をフィッターらが解析した結果、最初の40年間に比較して、最近の10年間は385種が平均で4.5日早くなったことが明らかになった。
 鳥類の生活にも影響があらわれている。例えば、産卵開始日を基準にすると、英国では65種のうち20種が1971-1995年の24年間に平均して9日早くなったという。産卵開始日が早くなるのは産卵前の気温の近年の上昇が原因だという。
2)日本における鳥類の例
 新潟県における小池重人・樋口広芳らによるコムクドリの産卵開始日の調査では、1978-2005年の間に15.3日早くなった。これは繁殖地や渡り途中の中継地において気温が年々上昇したことに関係している。
 また、日本では、さえずりの時期、渡りの時期が早くなっている。例えばツバメの初渡来日は名古屋では最近の52年間に約10日早くなっている。
3)フランスのブドウ収穫日の例
 フランスのブドウ収穫日の1600年頃から1800年頃までの記録は地方自治体などの公の機関に残っている。その記録の解析がフランスのアナール派と呼ばれる歴史学者達によって行なわれている。すでに何冊もの書物となって研究成果は刊行されており、その1部の日本語訳も刊行されているので、われわれは日本語でその季節学的な分析結果を学ぶことができる。フランスで気象観測値のない時代の気候復元にも役立っている。

直接の影響・間接の影響

 上述の鳥の初鳴き日が早くなる現象は、温暖化の、いわば直接の影響である。しかし、渡り鳥の繁殖地への到着は、越冬地から繁殖地までの距離が長いと、その中間地域の気候・天気(それはやはり温暖化の影響をすでに受けて変化してきている)の影響をより強く受ける。中間地域の気候・天気は中間地域において餌となる昆虫の成育にも影響している。
 その餌(昆虫の幼虫)の最も多い時期を過ぎていれば、渡り鳥の個体数は減少してしまう。つまり、温暖化の間接的影響で個体数は減少する場合である。地球温暖化は鳥類の生活季節のずれ、分布域の変化、個体数の大きな増減に影響を及ぼす。また、個体数が現在は増加していても、少し遅れて出てくる間接的影響のため、近い将来、減少に転じることもありうる。長期的な研究が必要である。

ニホンナシの開花日

 地球温暖化が園芸果樹に及ぼす影響について、最近詳しい研究が本條均とその協力者によって行われた。ニホンナシ“幸水”の開花日と気温との関係を(図1)に示す。


(図1)埼玉県におけるニホンナシ“幸水”の開花日と気温との関係(本篠均による)

 最近、埼玉県では温暖化のため、開花日は10年間で2.5日早くなっている。しかしながら、問題がある。秋・冬に温暖化すると、落葉果樹の自発休眠・覚醒に必要な低温の時間を十分に経過することができない。休眠が正常に終わらないので、発芽や開花が不揃いになり、生育の異常や開花期間の長期化などが起きる可能性が高い。ニホンナシの施設栽培では仮称“眠り病”がすでに報告されている。
 ブラジル南部における栽培の例では、7月(南半球だから7月が冬)下旬の7.2℃以下の気温の継続時間と花芽の異常との関係が有意であった。
 落葉果樹としてはリンゴ、常緑果樹としてはウンシュウミカンについて、研究がすすんでいる。今後、果樹別に、休眠・覚醒・開花・果実の成熟期などの各ステージを季節現象と捉え、温暖化の影響を調べる必要がある。ニホンナシ・ウメ・モモの成熟期は早くなっている。しかし、特定の色素の発現が明確なリンゴ・カキ・ブドウ・ウンシュウミカンなどの成熟期は色素の合成に低温が必要なため、むしろ、遅くなる傾向にある。
 また、温暖化により発生する害虫の世代数の増加、越冬害虫の北上、病害の増加などの課題を克服しなければならない。


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