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温暖化と生きる

No.1

2010.01.22

吉野正敏

温暖化とくらし

温暖化の認識

 昨年末、地球温暖化に関係する最近の研究結果のある公開発表会に出席した。いろいろ成果を拝聴し、勉強になった。ところが、最近の困った傾向を指摘するために、会の計画者が会場の入り口に置いてあった刊行物で知ったのだが、要約すると、<「最近の地球温暖化は人間活動の結果ではない。気候のゆらぎの一つでしかない。過去には寒かった氷河期もあったし、温暖な間氷期もあった。最近の地球温暖化の影響を人間活動の結果だと主張する科学者は間違っている」とする刊行物が、日本では多数でている>と言うのである。最近の地球温暖化は、人間活動による二酸化炭素やその他の温室効果ガスの増加が寄与していると科学的根拠をもって言えることを知る筆者には、驚きであった。
 以下、少し詳しくこれに関して述べておきたい。(1)気候にはゆらぎがあることは気候学ではすでにわかっていて、数年~数十年、数十年~世紀、数百年~千年くらいの寒暖の波が知られている。(2)その中のあるものは、太陽活動、地軸の回転周期などで、説明できるが、必ずしも全部が解明されているわけでない。(3)過去の地質時代(数万年~数百万年、数千万年以上の周期)、考古時代(数百年~数千年の周期)に、温暖期や寒冷期があったことは知られている。古生物学・第四紀学は長い研究の歴史でこれを解明してきた。最近では分析化学の手法や大型計算機によるモデル計算でとらえられている。(4)地質時代や考古時代のこれらの気候変化・気候変動と、最近の温暖化とは、時間スケールがケタ違いである。対応する原因・過程も異なる。(5)仮に、最近の数十年~百年が、地球本来の気候(人間活動の影響がない気候)の昇温期に当たったとしても、最近の昇温率は過去になかったような大きな値で、これは、やはり人間活動の影響が加わったと考えざるをえない。
 以上をまとめると、やはり、最近の地球温暖化は人間活動が大きく貢献しているとしなければならない。この連続エッセイは“温暖化の内容”を述べるのではなく、“温暖化と人間や動植物のくらし”の実態を述べるのだが、まず、初めに筆者の認識を明らかにしておく。

温暖化の影響

  温暖化の影響は異常気象としてよく現れる。過去2年間、筆者は「異常気象を追う」と題する連続エッセイの中で、温暖化の影響によってその発生回数が増えてきたもの、減ってきたもの、程度が弱くなってきたもの、強くなってきたものなどを紹介した。これらは、言わば、温暖化の気象現象、気候現象に対する直接の影響である。
 それに対し、動植物の生態や、人間の生活・生産活動に及ぼす温暖化の影響は間接的な影響である。間接的な場合、その影響は弱まるわけではなく、増幅する場合もあれば、予想外の関連分野に波及することがある。また、突発的な異常気象や極値ばかりでなく、平均値が変化するためにジワジワと影響が現れる場合もある。この連続エッセイでは、このような影響についてもふれてゆきたい。
 また、影響だから、受ける側によっても差が生じる。例えば、「異常気象を追う」の熱波や寒波による死者数のところでふれたように、都市生活者の構造が異なるので、インド・中国・ヨーロッパ・日本で比較しても影響の様相はかなり異なる。日本における温暖化の影響を考える場合、地球上の他地域の例を知ることは非常に大切なので、できる限り外国の例を紹介したい。

温暖化影響の内容

 温暖化とわれわれのくらしの実態をしるのに最もよい参考書は、日本の環境省の地球温暖化影響・適応研究委員会が2008年6月にまとめた報告書「気候変動への賢い適応」である。この報告書を作った委員会は7ワーキンググループからなっている。すなわち、

(1)食糧分野
(2)水環境・水資源分野
(3)自然生態系分野
(4)防災・沿岸大都市分野
(5)健康分野
(6)国民生活・都市生活分野
(7)途上国分野

である。

 なお、この報告書には扱ってないが、その他として製造業・発電事業・保険業・国際紛争・環境難民などの問題があると指摘している。この報告書は、内容的には現在の日本の各分野における最先端の状況をまとめてあり、よい参考になる。あえて難点を言えば、経済産業省・国土交通省などの所管事項に対する温暖化の影響がぬけていることである。日本の省庁の縦割り態勢からは致し方ないかも知れないが。
 一般的に言って、温暖化の間接的な影響は、対象別に整理すると次のようになろう。

(1)動植物(生態系、動植物帯、動植物社会の構成など)、地形(氷河、河川、沙漠など)、局地気候(雲霧帯、斜面の温暖帯、竜巻多発地域など)などの自然に及ぼす影響が第1である。一つの例として(図1)に陸域生態系における温暖化の影響の流れを示す。このようなメカニズムがそれぞれの過程で明らかにされることが大切である。

(図1)陸域生態系における温暖化影響のメカニズム(環境省、2008による)
(2)人間と人間社会に及ぼす影響は第1次産業では農産物の収穫量・生産高だけではなく、品質(味)なども問題となる。水産物・畜産物では輸入が増加すればそれぞれの産地における温暖化の影響が重要である。第2次産業ではエネルギー問題が大きい。風力やバイオエタノール生産に関連する植物生育過程への温暖化影響は大きい。さらに第3次産業としては、交通(鉄道・自動車交通・航空における強風・霧・砂塵など)、観光(エコツーリズムなど)、影響する対象の範囲は広い。
(3)人間生活の観点からみれば、衣服・食事・住居などは快適性を通じて温暖化の影響が最も反映する分野である。
(4)影響を受ける側は新しい条件に適応する。従って、例えば、40℃の熱波がきても、第1回目のインパクトと第2回目のインパクトは、人間個体の生理に対しても、人間社会に対しても異なる。この評価は非常に難しいが必要である。


 以上のような、たくさんの対象について、この連続エッセイでは可能な限り取り上げたい。


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