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温暖化と生きる

No.12

2010.06.23

吉野正敏

都市型洪水

都市の局地豪雨

 大都市内の局地的豪雨がよく発生し、局地的な洪水・浸水がよく見られるようになって、もう30年以上もたつであろうか。あるいは40年以上か、はっきりしたことは知らないが、かなり前からである。
 洪水といえば、昔は川の周辺とか、海岸近くの低湿地のものであった。ところが近代的な都市の中で、しかも、高台の住宅地などでも面積は広くないが、発生するようになり、新しい型の洪水として注目されるようになった。
 都市とは、たくさんの建物が降ってきた雨を屋根で受け止め、樋を通して可能な限り早く排水口に水を集めるところである。そして排水溝・排水管から下水道に流し込み、さらに近くの中小河川にはきだす。そのような施設・建造物を合理的に設計するのが都市計画の重要な点である。もちろん都市機能として要求されるインフラは他項目に及ぶ。しかし、湿潤地域の近代的な都市の設計では、雨水をなるべく速く排水溝・排水管に流し込み、さらに都市周辺の川にその水を流し出すことが、工学的に求められている。
 ところが、排水口から吸い込まれる量より多くの量の雨水が短時間の内に集まってくると、そこで滞水し、洪水となる。あるいは、排水溝の上流部ではうまく排水管の中に入っても、ずっと下流部で排水溝がつまり、途中の排水口から水が吹きだすこともある。よくマンホールの蓋を水が押し上げ、水が噴出する光景をテレビが報道する。水はその辺一面にたまり洪水となる。

都市型洪水の原因

 昔はなかったのに近年になってよく発生する理由は、以下のように考えられる。

(1)降雨が地中に吸い込まれるような緑地や裸地の面積が減少し、コンクリート・アスファルト・石畳などの面積が増え、多量の水が排水口に集まるようになった。
(2)上記の(1)のような地域が都市内でまとまってくるようになった。すなわち、大都市内の地域分化が、都心部と郊外と言うような単純な分化構造ではなく、副都心の形成、または、都市居住者が集合する都市住宅地・団地の形成、しかもそれが複数形成されるようになった。
(3)昔はなかった複数の中小都市からなる大都市圏の形成は、日中、熱源となる地域の形成に影響を及ぼすのに十分なほどの面積になった。また、建物・建造物の集合による風の水平成分の弱まりは相対的に上昇気流の強化に連なり、雨雲の発達にプラスの効果をもたらす。
(4)地球温暖化にともなって、降雨をもたらす温帯低気圧の活動・前線の活動は中緯度では活発になる? あるいは頻度が多くなる? これらの研究は熱帯低気圧の場合ほど研究されてないが、日本の周辺では暖候季にはあてはまるようである。この傾向は都市型豪雨の発生のチャンスを増す。
(5)下水道は、都市の中、または、周辺を流れる従来からの中小河川に繋がっているが、短時間に下水道の水量が増すと排水処理能力を上回る。そのため、あふれ出し、滞水し、洪水となる。


 以上のうち、特に(4)と(5)が地球温暖化と結びついている可能性が大きい。 

都市型水害の過程

 上に述べてきたことをまとめ、都市型洪水、さらに水害に至る過程を模式的に表示する(表1)。

(表1)都市型洪水の誘因から水害に至る諸現象の発生とその諸過程

誘因・要因・現象現象の発生・過程

1.誘因・要因集中豪雨・局地的強雨
2.都市域面積拡大・建造物増加・集水排水量の増加
3.都市域の水収支降雨の地下への浸透弱化(時間浸透量減少)・地表流出量増加・排水口へ集中
4.都市の排水能力排水機能弱化・下水道の能力限界を超過・滞水と洪水
5.都市機能都市のインフラ破壊・地下室や地下駐車場や地下街の浸水
6.災害(水害)都市機能停止・都市生活の停止・避難・災害の発生

(吉野、2010)

 

 地球温暖化による誘因・要因(段階1)の変化が最も重要だが、都市自体の変化(段階2から5まで)が速くまた大きいのが都市型洪水の発生を急増していることがわかろう。

2008年8月3日の例

 最近の一つの研究結果(村、2009)を紹介しておきたい。地上気象観測資料やドップラーレーダーのデータを使用して、2008年8月5日に東京とで発生した局地的な豪雨について解析した。この日の場合は、東京都の豊島区で下水工事をしていた作業員が避難し遅れ、流されるという災害が起きた。


(図1)2008年8月5日、11時30分-
14時00分の地上風と全国合成レーダー
降水強度。

(図2)(図1)と同じ時刻の2 km
NHM による地上風と10分間降水量(mm)
の変化。

((図1)(図2)はいずれも、村 規子2009:天気、56(11)による)

  (図1)は当日の11時30分から14時00分までの30分間の地上風と全国合成レーダー降水強度の分布を示す。(図2)は、(図1)と同じ時刻の2kmメッシュNHM(非静力学モデル)による再現実験の結果で、地上風と10分間降水量(mm)の分布を示す。簡単に言えば、(図1)は観測結果、(図2)はモデルによる数値実験の結果である。  (図1)を見ると、この2時間30分の間に、先ず11時30分に見られる東京都の23区部の南部、目黒区付近に降雨のセル(まとまった降雨域)がある。関東平野を反時計周りに廻ってきた北風と、相模湾から東京湾付近まで卓越している南風との収束によると考えられる。その後、13時ころまで、大きくみるとほとんど位置や大きさは変わらないようであるが、こまかくみるとセルの中心は多少北上し、12時には東京都23区部の北部、豊島区まできた。そして、セルはやや大きくなった。つまり、雨は強くなった。上記の作業員の事故が発生したのは、11時40分~12時であった。  (図2)の11時30分の図には降雨セルはあまりはっきりしていない。しかし関東平野部の北風と相模湾からの南風との間に形成されている気流の収束がみられる。また、別に房総半島の西海岸に沿って北北東方向に伸び千葉県の北部・茨城県の南東部を通過する降雨セルが連続する帯状の部分が見られる。これは、14時までかなりはっきりしているが、今回の災害に結びつく、つまり、今回の都市型洪水の誘引・要因となるものではない。  東京都の豊島区付近の降雨セルの発達は、結局、相模湾から神奈川県の東部を北上する南の気流と、鹿島灘から関東平野に侵入し、東京都東部・埼玉県南東部で北または北東の気流とが、収束したことが原因であったことが明らかになった。図に示した時間、これらの局地気流の勢力がほぼ均衡していたので、収束帯の位置がほとんど動かなかったのであろう。  以上が2008年8月5日の場合における上記(表1)の第1段階(誘因)である。その後の諸段階を経て、最終段階の災害の発生、この日の場合、作業員の方が亡くなるという事態に至った。(図1)のような状況は、これまでにもなかったわけではない。地球温暖化した場合、多くなるのか、少なくなるのかが、一つの課題である。


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