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温暖化と生きる

No.21

2010.10.27

吉野正敏

猛暑のツメ跡:野菜と果物の値段

いつあがり、いつさがるか

 すでに連続エッセイ[19][20]で、2010年の猛暑とその影響について述べた。生活や個人消費に対する影響は[20]でふれたので、今回は野菜と果物などいわゆる青果物を取り上げる。特に、猛暑の進行につれて、影響はどのように変化するか、言い直すと、猛暑はどのように影響し、どのくらい続いて、影響はいつごろなくなるかを調べてみよう。

野菜の卸値

 過去の猛暑の年の例では、“卸値の下落”と言う影響がまず現れる。それは、気温が上昇すると野菜の成長が速まり、生産過剰になるので、農家は前倒しをして出荷する。そのため、卸値は下落する。2004年の猛暑の神戸の場合、西スーパーマーケットでは、ナス・ピーマン・キュウリ・トマトが2003年の同期より10~40%値下がりした。同じくダイエーでは30~60%の値下がりであった。
 2008年7月の猛暑では、東京中央卸売市場(大田市場)の卸値は、7月初めと7月末を比較すると、ニンジンは52%、ナスは50%、ピーマンは44%、キュウリは25%下落した。特にニンジンは過去5年間の最安値であった。安値は8月上旬まで続いた。このように猛暑の初期は、野菜は安値となる。
 しかし、猛暑による野菜の成育阻害の結果、次第に品不足に転じる。その結果、高値になる。東京の中央卸売市場(大田市場)の2008年7月(猛暑初期)の場合と2010年9月(猛暑末期)の場合を(表1)に示す。

(表1-1)猛暑(初期)による出荷前倒しの結果。2008年7月29日の状態

野菜7月初旬と比較して
(大田市場)
平年(2003-2007年)に比較して
(大田市場)
都内スーパー

ニンジン52%安値28%安値50%安値
ナス5040
ピーマン444030-40
キュウリ2540

 

(表1-2)猛暑の結果。野菜の大田市場の卸値(2010年9月24-30日)

野菜9月下旬の卸値

ニンジン30%高値
ホウレンソウ100
ハクサイ100
長ネギ50
ブナシメジ50
シュンギク30-60

 

 以上をまとめると、時間的な推移は次のようになろう。

 [春、野菜は正常成育]――『猛暑発生』――[夏の異常成育を予想]――[前倒し出荷]――[猛暑初期の《安値》]――『猛暑』――[品不足]――[猛暑後期・終了期の《高値》]――[秋になり次第に回復]

 この間、約4カ月かかる。産地は、卸売市場で少しでも有利な価格を得るような状況をあらかじめ研究しておく必要があろう。上記のダッシュ部分の日数予測は困難だが、何とか、経験則をしぼりだして、計画性を高めてゆかねばならない。  2010年夏、困り果てたコンビニエンスストア・外食産業などが農業事業会社・農業法人を設立し、ダイコン・キャベツ・タマネギ・ハクサイなどの栽培あるいは生産の試験を始めたという新聞記事がでていたが、各産地の各農家は、負けてはいられまい。

果物の収穫・出荷

 次に2010年の果物の収穫と出荷に及ぼした猛暑の影響を述べたい。(表2)にまとめた。

(表2)2010年9月上―中旬における果物の卸値価格

果物卸売価格(前年同期と比較した上昇率)収穫の遅れ・出荷量など
東京都中央卸売市場大阪市中央卸売市場

カキ83%87%和歌山県紀の川市の「中谷早生」の収穫10日遅れ。収穫量2009年の20%。
ナシ8581鳥取市収穫10-14日遅れ。出荷量は2009年の60-70%。小玉傾向。東京大田市場9月10-16日40%高値。
リンゴ4159東京大田市場9月10-16日50%高値。猛暑で色付きが遅れ。
ジャガイモ2832小玉化の傾向。
サツマイモ197

(注:東京都は9月11-20日、大阪市は9月1-21日の価格)

 

 この他、2-3の極めて特徴ある影響は次のようなものがあった。
 マツタケ――極めて興味ある変動を示した。9月前半はまだ猛暑末期で高温だったので、国産の入荷量は前年の同期に比較して10%に減少、価格は4倍。入荷は、例年は9月20日ころからだが、2010年は9月末になった。ところが、その月末ころ、急に気温下がり始めたので、一転して、豊作になった。特に東北地方ではっきりした。例えば、岩手県内で有数のマツタケ産地の岩泉町では10月上旬、大豊作で前年同期と比べて30%安値になった。10月19日、東京の築地のある青果店では岩手・宮城・長野県産の良質のマツタケを例年の50%の価格で販売した。
 その他のきのこ――10月豊作になり、山にきのこ取りにはいり遭難、あるいは、毒きのこを販売したり、きのこに関連する事故が多かった。きのこ取りを生業とする人の過去30年の経験では、今年のような豊作はこれまでなかった。
 クリ――高温のため品質落ち。
 ミカン――高温・日焼けで品質落ち、「浮き皮病」が発生。
 スイカ――良好。
 結局、果物は収穫の遅れ、品質・色付きなどの劣化、大きさの小玉化、市場への入荷量減少がめだった。10月上・中旬、卸売価格は値上がりした。ただし、きのこ類は大豊作で安値であった。

野菜と果物の違い

 野菜と果物の大きな差は、成育期間が3-4カ月の野菜と、樹齢を重ねた果樹の結果である果物との違いであろう。野菜でも、猛暑の影響は葉物に酷く、速やかだが、根菜類には地上部に加えて地中温度の上昇、乾燥がきき、やや遅れるが、やはり深刻である。
 果物のうちスイカ・メロンなどは野菜に分類されるカボチャなどと同じく地表を這うつる性の成育形態ため、異なった影響をうける。前倒し出荷も不可能である。果樹は猛暑の夏季を越して、秋に収穫されるから、猛暑の影響を受ける期間が長く、深刻な被害を受ける。例えばリンゴでも、品種・早生晩生・樹齢・樹勢・畑の微地形などにより被害の程度はかなりことなる。消費者の立場から言うと、品質劣化の個体差が大きいので、リスクが大きいことになる。果物に及ぼした猛暑の影響は、貯蔵技術が発達した今日でも、秋を越して冬まで続くであろう。
 市場では品薄になり、卸売価格は高値となった。しかし、入荷量が減少し、消費者の買い控えなどがあるので、販売業者にとっては、やはり、収益減となった。
 2010年10月のきのこ類の大豊作は未経験の現象であった。山地におけるきのこ菌の繁殖と猛暑の推移との関系を研究することが必要である。


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