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温暖化と生きる

No.27

2011.01.19

吉野正敏

ヨーロッパの寒波と大雪

2010年12月から2011年1月

 この連続エッセイ[25][26]で同じテーマをとりあげた。しかし、それでもまだ書きたらない。それほどのイベントである。地球は温暖化しているというのに、どうして寒波や大雪がくるのか、という質問がたえない。また、日本ばかりでなく、ヨーロッパやアメリカ合衆国東部でもどうして起きるのか。世界的なのか、ほぼきまった地域に起きているのか。これまで、このような疑問に答えるよう私としては努力してきたが、まだ、われわれの知識は十分でないし、また、いろいろな面からの記述や考察が必要なのである。今回はヨーロッパの気圧配置を中心にして書いておきたい。

ヨーロッパの気圧配置から

 日本のメディアも紹介しているように、12月中・下旬、北ヨーロッパからイギリス・フランス・ドイツ・その他ヨーロッパのほぼ全体が大雪・低温であった。アメリカ合衆国の北東部でも記録的な大雪、1月になっても広域で低温であった。これは、連続エッセイ[25]で紹介した。日本もこの冬、12月・1月各地で大雪であった。まだまだ2月にかけて大雪の冬が続くであろう。雪による道路交通への障害・被害・対策などに関しては連続エッセイ[26]に述べた。 
 ヨーロッパの気圧配置型も、日本でいえば西高東低型・日本海低気圧型などのように幾つかに大分類される。その中で大雪・低温をもたらす主な型があるので、それを紹介したい。日本の新聞には観測値による現況天気図がのるが、ヨーロッパの新聞では予報天気図が一般的である。2010年12月23日と24日の場合を(図1)と(図2)に示す。クリスマス・イブのときだし、異常な低温でもあったのでこの日を選んだ。 
 2010年12月23日の(図1)では、990ヘクトパスカルの中心をもつ低気圧が地中海西部(バルセロナの東方)に大きく発達している。この低気圧は地中海式気候(冬雨気候)の立役者で、ジェノヴァ湾低気圧ともよばれる。長い温暖前線が南フランス・ドイツを横切り北東方向に伸び、さらにロシアに至る。前線は停滞ぎみで、その北側の地域における低温は著しい。ヘルシンキは-12℃、オスロは-18℃、ストックホルムは-9℃、ダブリンでさえ2℃である。イギリス・北ドイツには東北東の寒気(黒い太矢)が流入している。フランス北西部では北東の風、ボルドーやマドリッドではほぼ北風が低気圧に吹込んでいる。イベリア半島の北部でも雪が降ったのはこのためである。これに反して、地中海の東部は南からの気流(白い太い矢)が発達し、気温が高く、ローマは19℃、アテネが18℃である。


(図1)ヨーロッパの天気図。2010年12月23日

※(図1)~(図4)の共通説明
図中の Tは低気圧、Hは高気圧、等圧線の数値単位はヘクトパスカル、前線の表現は日本式と同じ。
地名は次の通り:
ダブリン Dublin、ロンドン London、オスロ Oslo、ストックホルム Stockholm、ヘルシンキ Helsinki、サンクトぺテルブルク St.Petersburg、モスコー Moskau、ハンブルク Hamburg、フランクフルト Frankfurt、ベルリン
Berlin、ワルシャワ Warschau、キエフ Kiev、パリ Paris、ウィーン Wien、ミュンヘン Munchen、ブタペスト Budapest、ヴァルナ Varna、ボルドー Bordeaux、ミラノ Mailand、リスボン Lissabon、マドリッド Madrid、バルセロナ
Barcelona、ニース Nizza、ローマ Rom、ドブロフニク Dubrovnik、イスタンブール Istanbul、マラガ Malaga、アルジェ Algier、テュニス Tunis、パレルモ Palermo、アテネ Athen、アンタリヤ Antalya、ラス・パルマス Las Palmas
資料はDie F.A.Z.-Wetterinformationenによる


(図2)ヨーロッパの天気図。2010年12月24日

 (図2)は12月24日で、低気圧の中心はイタリア北部に移動し、これからアドリア海の奥にでると推測される。これも典型的な冬型気圧配置の一つで、低気圧の出現(発生・発達・停滞)頻度はさきのジェノヴァ湾が最多であるが、次いで、アドリア海の奥の海域である。陸地面より海面が寒候季には温度が高いためである。中心示度は990ヘクトパスカルで23日から続いてヨーロッパの広い範囲を覆っている。中心がやや北東に移動したので、中心より西側では北よりの風が強まり、フランス南西部やイベリア半島、北アフリカ(地中海西部沿岸)では気温が23日よりさらに3℃くらい降下した。黒の太い矢印で寒波が北からやってきた状況がわかるであろう。
 (図3)は、2011年1月4日の気圧配置で、イギリスの北方に中心示度990ヘクトパスカルの低気圧がある。この低気圧は北大西洋のアイスランド付近に発生し、発達して冬に北西~北ヨーロッパを襲う。この低気圧の暖域では比較的高温である。(図3)で、ダブリン・ロンドンが6℃になっていることで、それが理解できよう。この低気圧の中心から南東方向に延びる温暖前線の高緯度側、すなわちスカンジナビア諸国では-8℃である。
 一方、大陸は高気圧に覆われており、中心示度は1020ヘクトパスカルで、その東側では-10℃の寒気が南下している。西ヨーロッパは風が弱く、強い放射冷却で0~-4℃である。このような地域差がはっきり示されている(図3)は、冬のヨーロッパにおける典型的な気圧配置型の好例である。


(図3)ヨーロッパの天気図。2011年1月4日

(図4)ヨーロッパの天気図。2011年1月5日

 (図4)は1月5日、北大西洋のアイスランド低気圧は985ヘクトパスカルに深まり、大陸・内部の東ヨーロッパを覆う高気圧は1030ヘクトパスカルになった。気圧傾度が大きくなった結果、ヨーロッパ全域で蓄積した寒気が各地で荒れくるった。ほとんどの地点で前日より1~2℃さがった。

大雪・寒波の被害の特徴

 ヨーロッパにおける2010年12月下旬の大雪・寒波の影響は大であった。その結果については、すでに書いたように、雪と氷が空港の発着便の運行に支障をきたし、空港の閉鎖・欠航・遅延が幾日も継続し、かつ、それがヨーロッパ広域の多数の空港で発生したことである。ここでは、このような航空交通問題ではなく、種々の被害について、日本の2010年12月から2011年1月の被害と比較し、その相異点・類似点を考えてみたい。
 まず自動車交通について、比較してみたい。イタリアの自動車高速道路(Autostrada of Sun、太陽の自動車道路)は南北を繋ぐ重要な道路だがここで12月17日夜、路面凍結と積雪のため事故が発生した。後続の立ち往生した自動車の列は40kmに達したという。ここで、注目すべき点は、「莫大な量の雪が短時間に降ったこと、昼間昇温して雪は融け夜間凍結し、路面の凍結が顕著であったこと」である。われわれとして学ばねばならないのは、これまで、雪の影響が少なかった南ヨーロッパでこれが発生した点である。日本では12月31日、鳥取県の国道で雪のためスリップした自動車が道を塞ぎ、1月1日にかけて後続の約1,000台が立ち往生し、国道で動けなくなった。山陰は日本の本州の中では北陸・上信越の豪雪地帯に比べれば南である。今回のイタリアの場合、日本の場合、いずれも、従来の多雪地帯で雪の影響が頻発する地域の南限より、さらに南の地域で起きている。
 この類似した理由は、対流圏の気圧の谷の深まりが強くなり、発生する低気圧の位置が従来より低緯度にずれ、かつ、深くなる傾向に両地域ともあるためと思われる。また、従来の大雪地帯より南であったため、雪に対する運転者の経験・国道の管理・除雪作業計画などの不足・不備も、共通点があったのではなかろうか。
 次はスイスの例である。2010年12月17日アルプス地方は降雪・積雪ともまれにみる深刻な状況になった。山岳地域内を網の目のように張りめぐるスイスのバス路線は有名であるが、路線の短縮、運行中止が相次いだ。しかしながら、伝統的な除雪の準備と実施、冬タイヤ着装の徹底などで、除雪のために多額の予算支出を余儀なくされたが、山村の地域的孤立を防ぐことができた。
 筆者は、スイスのこのような除雪方法・計画・実施の詳細を知らないが、日本はもっと勉強しなければならないように思う。特に日本は過疎化した山村集落が今後多くなり、また、国道ではなく、地方自治体による除雪対応がより重要になる山村を多くかかえる日本は、スイスの例を勉強する必要があろう。


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