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温暖化と生きる

No.18

2010.09.15

吉野正敏

バングラデシュの洪水

南アジアも洪水

 南アジアの洪水被害は想像を絶する。この連続エッセイでも何回か紹介した。今年、2010年7月下旬にもパキスタン北西部では豪雨のため、政府の公式発表でも死者1,677人、被災者は1,860万人と言う。非公式には2,000万人ともいわれている。倒壊・浸水家屋は125万戸、桁はずれに大きな数である。今回はバングラデシュの洪水について紹介したい。
 ベンガル湾周辺では、サイクロン(熱帯低気圧)により死者約30万人の被害をもたらした記録は18世紀以来だけでも3回ある。平均して1世紀に1回という数字は恐ろしい。
 日本地理学会の災害対応委員会は2001年以来、研究発表会、公開シンポジウム、論文集刊行などの活動をしてきた。その委員会により最近刊行された『温暖化と自然災害』(古今書院、2009)の中の松本淳教授らの記述を参考にしながら、バングラデシュの洪水とサイクロン、その影響についてまとめた。

サイクロンによる死者数

 1960年以降、サイクロンにより1,000人以上の死者がでた場合を(表1)に示す。

(表1)バングラデシュにおける1960年以降、1,000人以上の死者をもたらしたサイクロンと死者数

年/月/日死者数(人)

1960/10/93,000
1960/10/305,149
1961/511,000
1963/5/2822,000
1965/5/1136,000
1965/612,047
1970/11/12300,000
1973/12/91,000
1974/82,500
1981/12/111,000
1985/5/2415,000
1988/11/291,000
1991/4/29(Gorky)138,866
2007/11/15(Sidr)4,234

(松本ほか、2009による)

 

 1970年、1991年のサイクロンによる被害の結果、サイクロン・シェルターと呼ぶコンクリート製の高床式の避難施設を中心に約2,000棟が設置された。そのシェルターのおかげと、気象局のドプラ-レーダーがサイクロンの動きを監視し、いちはやく避難勧告をだしたため、2007年の場合は1991年の場合に比べて、死者数は非常に少なくなった。気象監視・警報の発令と伝達・避難勧告と誘導などの防災システムの確立がいかに大切かのよい例である。

コメの栽培

コメの栽培

 バングラデシュにおけるコメの品種別の単収・栽培面積・灌漑面積などの年々の変化をまずみよう。


(図1)バングラデシュにおける洪水面積率(棒)と稲の品種別単収(実線)
(松本ほか、2009による)

 バングラデシュではコメは1年に3期作で、
1)雨季前期作:作付け品種はアウシュ(Ausu)
2)雨季後期作:作付け品種はアモン(Amon)
3)乾季作:作付け品種はボロ(Boro)
に区分される。(図1)は1947年から2000年のこれら3期作それぞれの単収の変化を示す。ボロがもっとも多く、次いで、アモン、アウシュが一番少ない。ボロの1960年だい後半からの多収穫はみごとである。洪水面積の現象も乾季作だから影響ない。しかし、雨季と関係するアモン・アウシュには1998年の洪水の影響はみられる。
 次に灌漑面積と乾季作のボロの耕作面積と洪水面積の年々変化の状態を(図2)に示す。


(図2)バングラデシュにおける洪水面積率(棒)と灌漑面積(点線)、乾季作ボロの耕作面積(実線)
(松本ほか、2009による)

  上に(図1)で示したようにボロは1980年代末以来、単収は増えた。これには灌漑の普及が大きな役割を果たした。(図2)にはボロの栽培面積・灌漑面積の変化と洪水面積の変化との関係を示す。この図からわかることは、1988年と1998年にボロ(高い収量品種)の栽培面積が急上昇し、しかもそれは洪水面積率が突出した年である点である。この高収量品種はハイブリッド米HYVで、灌漑が必要な高い土地で栽培されている。したがって、高地、灌漑の整備、洪水と関係なしの条件の結果がでたのであろう。しかも、大洪水の年には乾季のコメの栽培面積は灌漑面積以上に増えるという実態があることも見逃せない。
 大洪水後の乾季米の増収には、低地に残った洪水時の水の効果もある。また、上流から流れてきた肥沃な土壌の影響、農民の危機意識の高まり、外国からの援助で高収量品種や肥料の導入の進展などの影響も考えられる。逆説的ではあるが、これが大洪水を契機にバングラデシュの農業は発展したともいえよう。しかし、国レベルでみれば高い代償を払っていることを忘れてはならない。

地球温暖化と乾季・雨季・サイクロン、コメの栽培季節

 現在のバングラデシュにおけるコメの栽培カレンダーは(図3)のとおりである。表1に示したようにサイクロンは1・2・3月には襲来しない。乾季であることがわかる。


(図3)バングラデシュで栽培されている主要な稲品種の栽培カレンダー
(松本ほか、2009による)

 (図3)にみられるように、ボロの栽培は1月に始まる。5月はサイクロンの襲来のピーク月であり雨季の始まりでアウシュの栽培が始まる。サイクロン襲来の第2のピークは10・11・12月でアモンは8月から12月までの間に栽培される。
 さて、地球温暖化によって、このようにきっちりと組まれている栽培季節のカレンダーはどうなるであろうか。これまで、台風・ハリケーンなどの熱帯低気圧は強い大きなものの数は増え、弱いものの数は少なくなるとされているがサイクロンもおそらくおなじ傾向であろう。バングラデシュでは上記のように乾季のボロの栽培によって、洪水の影響を逆にプラスに取り入れることさえある。地球温暖化の影響はこの面だけを考えれば救われることになろう。しかし、問題はそう簡単ではない、もし1年の中の雨季・乾季の長さの配分が変化したらどうなるのか。サイクロン襲来のピーク月が変わったらどうなるのか。栽培カレンダーはきわめてきっちり組まれているのだから、対応は単純ではない。


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