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暮らしの中のバイオクリマ

No.46

2013.10.02

吉野正敏

台風18号が残したもの

新しい傾向

 2013年の9月中旬、日本の本州に上陸し北上した台風18号は、幾つかの新しい事実をもたらしたように思う。気象学的にはもちろん、われわれの生活や社会・経済活動に関わる新しい問題を提起したようにさえ感じる。当然、バイオクリマの課題・観点も含まれている。今回はそれを考えてみたい。

台風の発生・進路・本土上陸などの予想

 本土に上陸する3~4日前から予想が発表され、移動速度が遅かったためもあろうが、それが的中した。この予報を快挙と言うべきか、国民の一人としては、高く評価したい。予報技術向上の当然の結果であるとか、あるいは、台風の進路や発達に影響する中緯度高気圧の動きが教科書的であったと考えることもできよう。しかし、理由はともあれ、予報は的中することが大切である。
 台風18号の動きとそれに関連する現象の背後に、筆者は地球温暖化の影響が、直観的で申し訳ないが、何か潜んでいるように思えてならない。まずは、実態を列記する。
(1) 3~4日前から移動する経路や日時の予想が発表され、それがほぼ的中した。
(2) 災害対策はもちろん、通勤・通学・営業対策、さらには工場の生産計画・サプライチェーンの検討・医療日程計画などの予定・対策を立てることができた。
(3) 新聞・テレビ・その他の情報に流された天気図には停滞前線が記入され、その位置と豪雨・洪水・土砂災害が明白であった。台風の動勢に関連した天気情報の内容の充実の成果である。水害対策に貢献した。
(4) そのような停滞前線は8月・9月上旬の天気図にも記入されていた。従来(地球温暖化が顕著になる以前)よりも頻度が多かったようである。
(5) この停滞前線を、テレビなどの解説では9月1日から、秋雨前線と呼ぶようになったようだが、8月の停滞前線とは気象学的・気候学的に差があるのか?
(6) 従来の秋雨前線のイメージ(定義)はシトシトと降る「秋の長雨」(秋りん)をもたらす前線で、水害をもたらすような豪雨の原因にはならなかった。これが変わってきたのは地球温暖化の影響か?
 以上のような幾つかの項目にまとめられよう。

9月13日から16日までの推移

[13日]台風18号は9月13日、小笠原諸島の南海上を西に進んでいた。まだ中緯度高気圧南端にあった。13日には、「15日頃から日本各地で局地的に非常に激しい雨が降り、16日に関東・甲信地方に接近する恐れがある」という予想が発表された。
[15日]朝から各地で大雨。徳島市で24時間に300mm、神奈川県海老名市・平塚市、埼玉県所沢市、その他、宮城県・茨城県・栃木県などで大雨による浸水被害が出た。(図1)(上)には15日21時の天気図を示す。台風の中心の位置、停滞前線の位置がわかる。(図1)(下)は15日23時に発表された予想進路の図である。

(図1)(上)2013年9月15日21時の天気図。
(下)同上、23時の台風18号の予想進路。(いずれも気象庁による)
[16日]午前5時5分「数十年に1度」の大雨・水害という特別警報が京都府・滋賀県・福井県に出た。関東では熊谷市・行田市に未明に竜巻、群馬県みどり市では午前2時20分頃、竜巻が発生した。台風は午前8時頃、愛知県豊橋市付近に上陸した。長野県・埼玉県を抜けて北東方向に進んだ。
 午前11時に上記の3府県の特別警報を解除した。15-16時八幡平市松尾で48.5mm、雫石町西根で47.5mmの豪雨を観測した。死者5人、行方不明5人、負傷者131人、岩手・福島・三重・福井・滋賀・兵庫の諸県の避難指示は50万人に及んだ。
 東海道新幹線は上下合わせて145本運休、秋田新幹線は終日運休、空の便は航空各社合計約600便が欠航した。
[18日]利根川流域の6都県に水を送る貯水池の貯水量は、午前0時には平年同時期の90%にまで回復した。13時に取水制限を全面解除した。
 盛岡市玉山区で松川が氾濫し、地域住民が孤立した。家屋の被害、農作物の冠水被害甚大、鉄道の運休が多く出た。

被害の特徴

 上記のような被害の実情を少し詳しく考えてみたい。先ず、死者・行方不明とも、極めて少ない。これは予報が2~3日前から出ていた効果と考えられる。一方、避難指示者数が多いことは、被害地域が全国にまたがって多数に上ったためであろう。この傾向は今後ますます強調されるであろう。
 ついで、突風・竜巻が付随して発生したことである。極めて強い竜巻が、日中ばかりでなく、夜間にも発生した。これについては今後、調査・研究を急がねばならない。
 最も重要なことは、上述した停滞前線の実態解明、停滞前線の気圧配置型との関連、台風活動・季節推移(盛夏と秋との違い)との間係、地球の温暖化との関係の解明である。豪雨・強雨などに起因する新しい災害にも目を配るべきであろう。
 そして、避難対象者が激増することは、避難所・避難施設におけるバイオクリマの諸問題が激増することを意味する。避難している時間は地震・津波の場合に比較すれば短いかも知れないが、それなりに特有の課題があろう。対応を考えておくべきだと思う。


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