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暮らしの中のバイオクリマ

No.10

2012.05.16

吉野正敏

異常竜巻とバイオクリマ

竜巻はバイオクリマの重要な要素

 2012年5月6日、関東地方を中心に異常に発達した竜巻が発生した。竜巻はこれまでにも1960年代・1970年代に総合研究され、詳しい実態が捉えられてきている。しかし、現象は瞬発的であり、住家・農業施設・農作物など、あるいは鉄塔・交通機関などの破壊が主で、これらの損壊で重軽傷者は出るが、死者はまれなので、バイオクリマの研究対象に取り上げられなかった。これは、バイオクリマが医学・健康の立場からは、いわゆる内科的な課題を主として扱ってきたためである。竜巻による飛散物や破壊された建造物による圧死などの外科的な課題を扱ってこなかった。
 今回、異常竜巻が発生して、大きな被害の報道に接した。正直に言って、筆者は深く反省した。竜巻はバイオクリマの重要な要素である。以下、詳しく述べてみたい。

竜巻のモデル

  竜巻の教科書的なモデルは、筆者の『地球温暖化時代の異常気象』(2010,成山堂)に紹介した。今回は特に関東地方の気象や地形条件を意識して(図1)のモデルを描いた。南からの暖気は、つくば市で5月6日の最高気温25.8℃と記録された。一方、北からの寒気は日本上空の500hPa面において、-21℃で、4月上旬並みの低温であった。この両者が関東平野で収束し、地表面からの加熱効果も加わって強い上昇気流が起こった。そして積乱雲(入道雲)を発達させた。


(図1)関東平野における異常に発達した竜巻のモデル(吉野原図)

 反時計回りの激しい渦である竜巻の中心部から地面に向かって漏斗状の雲が垂れ下がる。積乱雲はさらに発達し圏界面(地上約13km)まで達する。積乱雲の中の上部では雨滴が発生する。次第に大粒となり落下する。しかし上昇気流が強いと落下せず上空へ持ち上げられ落下・上昇を繰り返す。この間、0℃以下の気層中では氷となり、次第に大きな雹(ひょう)となる。まれには、ピンポン玉、卵くらいの大きさになる。
 竜巻はさらに発達し、漏斗状の雲の先端は地上にまで達する。地上では巻き上げられた砂塵や破壊された建造物の部分などの飛散物が舞い上がり、強い風で運ばれる。
 積乱雲の中では強い下降気流があり、地上ではダウンバースト(陣風)と呼ばれる。破壊的な風で、大粒の雨、雹が降る。飛散物による被害も大きい。
 このような、竜巻にかかわる一連の現象が発生している積乱雲は一つの系をなす細胞(セル)の大きなものとみられるので、スーパーセルと呼ばれる。中心部の低圧、地上部の強風、飛散物による地上の物体の破壊・損傷、巻き上げられた砂塵などが特徴的である。バイオクリマに影響するのはこれらの異常な状況である。

2012年5月6日の被害の実態

  茨城県から栃木県にかけて竜巻によって大きな被害を受けたのは3本の細長い地域である。いずれも南西から北東の方向に延びている。今、これを南からA,B,Cと名付けて(表1)に実態を示す。なお、この中の数字は速報値で、それぞれの担当する省庁・機関・自治体などが現在調査中なので、いずれ精査結果が出るであろう。また、福島県にも5月6日11時20分これらに劣らない竜巻被害があった。

(表1)2012年5月6日の関東平野における3本の帯状竜巻被害地域

 ABC

市町村名常総市・つくば市・北条筑西市・桜川市真岡市(西田中)から
茨城県の常陸大宮市
発生-終息時刻12:35-12:5312:30-?12:40-?
移動速度60km/時
進行方向NENENE
ひどい被害地域の形態
(幅x長さ)
500m x 17km600m x 21km650m x 31km
竜巻の強さF2F1F1

竜巻による被害

  今回の竜巻による被害はこれまでに無い大きなものである。死者1名、重軽傷者52名、全壊家屋数、被害地域のがれき量、農作物と関連施設の被害額などいずれも特筆すべき額に達した。その1部を(表2)にまとめた。

(表2)2012年5月6日の竜巻による被害の概況

 茨城県栃木県

死者1名0名1名
重軽傷者52名
建物全壊
   内訳
181棟
  つくば市  170棟
  桜川市    9棟
  常陸大宮市 2棟
  常総市   25棟
7棟186棟
被害建物
   内訳
1137棟
  つくば市  827棟
  桜川市    80棟
  常陸大宮市 41棟
934棟
  益子町  470棟
  茂木町  186棟
  市貝町   1棟
2071棟
農作物210,820千円18,690千円229,510千円
農業施設300,360千円155,850千円456,210千円
合計511,180千円174,540千円685,720千円

 以上の他、がれきが24,000トン(両県合計)出たという推定があり、停電は関東一円で7万世帯以上に及んだ。落雷による死者は1名、ショックによる意識不明1名の報告がある。 また、コンテナが100m以上飛ばされたとか、軽トラックが50cmくらい浮かび上がったなど、強風のほかに低圧の影響があったことがうかがえる。農業被害では栃木県特産のイチゴ栽培施設への影響が大きかった。また、竜巻による極めて多量の飛散物が水田に落ち、ちょうど田植時期だったが、田植ができない状況が報告されている。水田中の異物の排除は、ガレキの跡始末より難しい新しい問題である。

竜巻注意情報――バイオクリマの課題

  今回、これまで経験したことのないような、異常に発達した竜巻に見舞われ、『気象庁が出す情報は的中率が低い』とか、『行政が事前に注意を喚起すべきだ』などの意見が新聞などに見られた。筆者の考えでは、これらは当を得てない。その理由は、先ず、この大気現象の時間・空間スケールからいって、竜巻の発生時刻・終息時刻・発生地点・終息地点を予報することは不可能である。おそらく、何年かすれば、科学的に(技術的にも)可能になるであろう。しかし、その予報システムを維持することは非常に高価で、実際に設置することは不可能な設備であろう。例で言うと、現在の防犯カメラのシステムのようなものである。可能な限り多数の箇所に設置すれば防犯の目的は達するであろうが、犯罪は皆無にはならないし、また、無制限に多数設置ということはその維持・管理の費用からいって不可能である。そうして、仮に怪しき人影が映ったとしても、凶悪犯人かコソ泥棒かの予想を立てるのは難しい。結局、防犯カメラの映像は、犯人が検挙された後、犯行までの足取りの調査に役立つだけである。防犯カメラがたくさん設置されていることを知っている泥棒は、そのあたりで仕事をするのをやめるだろうから、その効果はあろうが、竜巻はそんなことはお構いなしであろう。そして犯行はピンホールの現象なのだから、それを粗い目の網で掬うことはできない。
 予報の的中率が悪いという批判が適切でない理由も同じようである。的中率の計算が適切でないのである。率とは必ず全体の個数か回数か(分母)に対するある特定の現象の個数か回数か(分子)である。この場合、分母と分子が意味のあるものでなければならない。当然と思われるだろうが、実際には、誤って求められていることがある。例えば、対象とする地域範囲が適切かどうかである。分母は地方・県の空間スケールで分子は集落・わが家の空間スケールでは、適切な率をもとめたことにならない。集落名まで特定して予報や情報を行政が流すことは不可能である。

各自が前兆を捉え、判断すること

  各自が平常、関心をもって勉強しておくのが現在のところ最良であろう。竜巻の前兆現象を学んでおき、各自が行動するしか方法はない。地上での現象は次のようにまとめられる。この、どれか一つ、二つが起きたら竜巻の前兆である。
(1) 風が強くなる。
(2) 空が暗くなる。
(3) 大粒の雨・ひょうが降る。
(4) ゴーッという音がする。
(5) 雷鳴・稲光がする。
(6) 砂塵が舞い上がる。
(7) 屋根瓦・トタン・鉄板などの飛散物が多くなる。
(8) 窓ガラスが割れる。
 このような現象があったら竜巻はすでに自分のうえに来ていると考えてよい。以下のような対策で極力、被害を少なく、小さくする努力することである。
 屋外では、
(1) 頑丈な建物に入る。
(2) 建物の影に隠れる。
(3) 物置・プレハブ・自動車の中は危険。
(4) 電柱・大きな樹木から離れる。
 屋内では、
(1) できるだけ低い階に逃げる。
(2) ガラスの飛散が怖いので、ガラス窓から離れる。
(3) カーテンを閉める。
(4) シャッター・雨戸を閉める。
 以上のとおりである。地震とも津波とも、対策が異なることを注意したい。


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