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異常気象を追う

No.24

2009.02.10

吉野正敏

アジアの寒波

ヒマラヤの端を廻って

 北半球で東西に走る最も大きなヒマラヤ山脈は、高緯度地方で蓄積した冷たい空気が南下するのを防ぐ衝立の役割をはたしている。そのため、寒気は衝立の東 端か西端を廻って低緯度地方に吹きだす。その東端に相当するのが東アジアで、西端に相当するのが中近東・インド北西部である。これがアジアの寒波の吹きだ しで、気候学的にみた寒波の常習地域である。実際に、いつ吹きだすかは高気圧・低気圧の動き・配置によってきまる。シノプティックスケールと呼ばれる地域 スケールは高気圧・低気圧の平均的な大きさだが、そのスケールでいうと、東アジアでは高気圧の東から南の部分で、主として北東の気流として低緯度方向に侵 入するか、あるいは、低気圧の中心から南西にのびる寒冷前線の後に北西の気流として侵入することが多い。
 この連続エッセイ[23]ではヨーロッパの寒波について述べたので、今回はアジアの寒波について紹介したい。多数の凍死者をだす点では、アジアの寒波は、世界の気象災害のなかでも注目すべき現象であることを述べたい。

2009年1月初旬-中旬のインドの寒波

 2008年12月から低温な状態が連続した。12-13℃は、温帯では平常であるが、熱帯・亜熱帯では低温である。1月5日にはデリーにおいて8.1℃ を観測し、霧が日中も濃く、視程は750mであった。スリナガールでは0.2℃を記録、濃霧で国内便・国際便の18便が遅れ、15便がキャンセルされた。 たくさんの学校が閉鎖された。1月3日の報告では、ウッタープラデッシュでは約50人のホームレス・乞食が凍死した。ハルヤナでは2℃、アグラでは4℃に まで下がったという。道路交通の障害、学級閉鎖が相次いだ。
 1月4日シムラで1.7℃を観測し、付近の高度の高いところでは3cmの積雪となった。低温のため河川の流量が減少し、水力発電に支障がでるかと心配されたが、結果としては問題なかった。高地の湖は結氷した。1-5日の間の凍死者の合計は65人となった。
 凍死者数の過去の信頼に足る統計値がないが、私の手元にある1998年1月23日に300人、2003年1月8日に260人、2006年1月9日(2005年秋以来の合計値)に180人という大まかな値と比較すれば、2009年1月の場合は、これらよりは少ない。
 以上をまとめると、2009年1月のインドにおける寒波とその影響の特徴はつぎのとうりである。

(1) 12月中旬から1月中旬までの長期間にわたった。
(2) 日最低気温は熱帯(低地)といえども3-4℃まで下がる。高度の高いところでは0℃以下になる。
(3) 濃霧と豪雪(積雪)をともなった。
(4) 凍死者が多く、特に高齢者・野外で寝る労働者・ホームレスの凍死者が増加した。
(5) 交通機関への影響、学校閉鎖、学校児童の健康障害がめだった。

アジア寒波の記録

アジア各地における寒波をまとめると、(表1)のとうりである。

(表1)アジア各地の寒波の記録

年月日国名・地名寒波の状態・被害など
2000年1月バングラデシュ、インド低温
2001年1月-2月モンゴル大雪
2002年12月インド北部周辺低温
2003年1月・12月  インド北部周辺低温
2003年1月8日バングラデシュ3℃。北部8州合計で240人凍死。子供150人以上がディナジュプールの病院に低温に関係する合併症で入院。道路と河川交通は霧で不能。
2003年1月21日南アジア凍死者1,600人、インド・バングラデシュ・ネパール
2003年1月25日南アジア凍死者さらに59人
2004年1月インド、パキスタン低温
2006年1月インド、バングラデシュ低温
2006年1月インド265人以上凍死
2006年1月中国北西部大雪で家畜100万頭凍死
2007年1月16日バングラデシュ北部150人凍死。1月4日に5℃を観測。
2008年1月6日アフガニスタン0℃以下の寒さと雪、気管支炎など。
2008年1月-2月中国30年来の寒さ。14省で7,800万人影響を受けた。107人凍死、10700万戸が破損。82700万人が避難した。400万haの農地が影響を受けた。直接被害額は約1.7兆(日本)円。交通事故、停電。広西では養殖場の池が凍結。
2008年2月21日インド低温。ムンバイ8.5℃、40年来の低温。
2008年2月7日タジキスタン40年来の低温。電力不足で医療行為不能。食糧不足。水道管破裂。
2009年1月12日ネパール10人凍死。濃い霧をともなった。交通障害。
2009年1月15日タイ10年来の低温。平野部で7-14℃、バンコクで13-16℃。

(表1)をまとめると、以下のようになろう。

 (1)     インド北部・ネパール・バングラデシュ・タイ北部・中国南部、タジキスタン・アフガニスタン・モンゴルなどの記録が多い。東アジアでは北緯約15度が強い寒波の南限で、南アジアでは北緯約20度、中近東・西南アジアでは北緯約25度がそれぞれ南限である。
 (2)     寒波の定義が明らかでない。寒波とはどのくらいの低温を言うのか、絶対値か偏差値か、どのくらいの広さの地域か、幾日くらい継続する現象か、各国で、かならずしも共通してはいない。
 (3)     また、凍死者の数も過去幾日の合計なのか、明らかでない報告が多い。また、地域的な範囲はどこなのか、国全体か、州・市・県なのか、不明な統計が多い。
 (4)     上記(2)と(3)の結果、定性的にしか、寒波の強弱はとらえられない。

世界の寒波―その変化傾向

 アジアの寒波についてはもちろんのこと、世界の寒波について統一した定義による詳しい記録がない。最近、極めて大まかではあるが、統一した基準で世界の寒波の発生回数を統計した結果をWMO(世界気象機関)が発表した。その結果は(図1)のとうりである。

(図1)世界における寒波の発生回数の経年変化(WMOの資料による)

 2001年にピークがあり、それ以前は5-7年周期性の波を描きながら増加した。しかし、2001年のピークの後は急激に回数が減少し、2008年は最 少である。(表1)に示したアジアの場合を国ごとに数えなければアジア全体ではたとえば2003年1月1回、2006年1月1回である。これを考えると、 世界に共通する寒波の定義は難しいし、意味がないことかも知れない。


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