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異常気象を追う

No.38

2009.09.02

吉野正敏

台湾の台風

台風の季節

 台湾には毎年7月・8月・9月には台風がよく上陸する。北太平洋高気圧の東西に延びる尾根の位置が北に偏るか、南に偏るか、また、その西端がどのあたりにあるか、などによって、台湾に上陸するかどうかがきまる。
 北太平洋高気圧の尾根線は気候学的には8月に最も北偏するから、台湾に上陸する台風の数は8月に最多となりそうだが、実際はそうでない。毎年、多少なり とも大気の流れの状態は異なるし、ひと夏の間にも東西に延びる尾根線の位置は南北に多少振れ動き、位置を変える。7月下旬にはいったん北偏することが多い ので、台湾に上陸する台風の数も7月下旬に一つの極大がでる。
 少し詳しくみると、台湾の北部・中部・南部で、上陸する個数も少し違うし、その時期も異なる。(表1)をみると、北部は8月に極大で6・7・8月に集中している。

(表1)台湾に上陸する台風の北部・中部・南部の月別個数 *

地域5月6月7月8月9月10月11月合計

北部(24°N 以北)0081060024
中部(23-24°N)231330214
南部(23°N 以南)017480121

*)1949-1978年の30年間の合計。
[福建省気候資料室“台湾気候”編集組(1987):台湾気候。海洋出版社のデータによる]

 特に北部における8月の極大は10個で、これは30年間の合計だから、平均すると3年に1個の台風に見舞われることになる。これに対し、中部は全体とし て個数が少ないが5月から11月までという特徴がある。どの月といったはっきりした極大がない。一方、南部は7月と9月に極大があり、北部ほどではないが 約4年に1個の台風に見舞われる。以上が台風に見舞われる季節の特徴である。
 (表1)でわかったように、北部と南部が台風に見舞われる回数が多い。台風は海上を進む傾向が強いから、台湾を横断するより、北方か南方かの海上を進むことが多い。それが反映している。
 実際にどのような経路をとるか、代表的な幾つかの例を3形態に分類して、(図1)にまとめた。経路の場所(位置)と進行方向によって分類したものである。

(図1)台湾に上陸する台風の主な経路。
(左)北部を東から西へ、または南部を西南西から東北東へ。(中)南部を東から西へ。(右)南から北へ縦断。

((表1)と同じ資料により、編集した)

 台湾はさつまいものような形(あるいは長円の形)をしているが、その長軸にそって背骨となる3,000m級の山脈がある。(図1)(中)にみられるよう に普通はこの山脈の中央部を横切らずに避ける経路をとる。もし北太平洋高気圧の西端部の形によって、台湾を南から北に向かわねばならない場合は(図1) (右)のような経路をとる。

2009年8月8-9日の異常台風

 今年の8月8-9日、台風モラコット(Morakot)が台湾南部を襲い、1時間に100mm以上の雨を降らせた。この台風は移動速度が遅く、毎時 10kmくらいで、時にはさらに遅く、停滞することさえあったので、雨量が多くなった。最もひどかったところでは約3,500mmの降雨量があったとい う。中でも台湾最南部の県の屏東県がひどかった。被害額を(表2)にまとめた。

(表2)2009年8月8-9日の台風モラコットによる経済損失 *

県名County(ローマ字表記)被害額x1,000NT$ **

最多被害県
屏東県Pintung 1,941,991
高雄県Kaohsiung528,285
台南県Tainan249,005

最少被害県
台北県Taipei717
桃園県Taoyuan313

*)2009年8月10日の非公式統計。 **)1 NT$ = 約2.8 円

 次いで、その北に接する南部西側(台湾海峡側)の高雄県、さらにその北の台湾海峡側の台南県であった。
 台湾全体の総被害額は約1,900億円、死者は8月15日の統計で121人、8月16日の報道によると内務大臣は37,000人以上の台風犠牲者を救援 したと発表したという。7,000以上の家が半壊または全壊した。山崩れ・地滑りなどで土砂が流出し、道路・鉄道・送電線・電信施設などが寸断された。
 台湾政府の対策の遅れが大きな政治問題に発展し、総統が窮地に陥ったたことは新聞・テレビなどで報道されたとうりである。この問題は、異常気象による緊 急災害対策・救援対策の新しい課題のように思われる。インターネット・携帯電話の普及により、住民間の通信・住民と地方政府や中央政府間の通信が円滑に なったのはよいが、緊急時の人間(救助隊・援援隊・被害者)、物(救援物資)の動きの体制・形態・対応などはまだ旧態のままの状態という場合が多いという 結果が反映しているように思われる。被害地の住民のいら立ち が増幅し、それが異常に早く広く、全国規模に伝播する結果を招くからである。


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