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異常気象を追う

No.17

2008.11.06

吉野正敏

木枯らし

日本独特の表現

 今年は源氏物語の一千年祭で、いろいろなイベントがあるようだが、源氏物語が“木枯らし”という現象を、日本独特の言葉で千年も前にとらえたことに対す る講演会もシンポジウムも雑誌の特集も聞いたことがない。とにかく、“木枯らし”という言葉は古くから使われていたことは確かだが、日本独特の表現である ことは、意外と知られていない。手元にある和英・和独・和仏などの字引をひいてみると、どのように外国語では表現するかという、いわば、「説明的な言葉」 が書いてあり、一語でズバリ対応する語は書いてない。これは、日本語独特の表現である証拠であろう。
 日本語の気象学・気候学の教科書や入門書などには、“春一番”と並んで“木枯らし”は出てくる。専門用語としては、すでに定着しているようである。だから、気象庁は“木枯らし一号”が吹いた日を発表し、メディアもこれを取り上げる。人びとは話題とする。
 ショパンの12の練習曲の中の作品25-11(イ短調)の題を、日本語で“木枯らし”という。この訳を誰がつけたか私は知らないが、思うに名訳である。 シャンソンの“枯れ葉”を日本人は好むが、日本の木枯らしを理解できるのはおそらくフランス人だけではなかろうか。

関東と近畿の木枯らし

 現在、気象台では関東地方と近畿地方について、「木枯らし一号が吹いた日」を発表している。“木枯らし”とは、“10月半ばから11月末にかけて西高東 低の冬型の気圧配置になったとき、北よりの風速8m/s以上の風とする”。そして、毎秋最初の木枯らしを「木枯らし一号」として発表する。木枯らし一号は 関東地方(東京)と近畿地方(大阪)についてのみ、発表されている。なお、次に述べるように、最近、木枯らし一号の日が遅れぎみで、大阪では12月中旬に なることさえあるので、上記の定義で11月末というところは変更しないと、現状に合わない。
 さて、最近の“木枯らし一号”が吹いた日はどのようになっているのだろうか。(表1)は東京と大阪の最近の変化である。

(表1)“木枯らし一号”が吹いた日の最近の変化

関東地方(東京)近畿地方(大阪)
1996-2000年の平均11月5日11月11日
2001-2005年の平均11月10日11月23日
2006-2008年の平均11月10日-

 この表からわかるように、10年前と比べると約5日遅くなっている。気象庁によると、東京における木枯らし一号の1992年から2001年までの10年 間の平均は11月7日である。この値とくらべても3日遅れている。大阪ではさらに遅れが大きく、21世紀になって12日も遅れてきた。なかでも2003年 は東京では11月17日、大阪では12月19日で最近では最も遅かった。このように全般的に遅くなってきたのは、やはり、地球温暖化の影響であろう。
 なお、われわれにとって興味があるのは、関東地方にくらべて、近畿地方の遅れが顕著なことである。2000年、2003年、2004年、2005年など はその差が14-55日に及ぶ。これは西高東低の気圧配置による冬の季節風の吹き出しの日が遅れるのが大阪の方が東京より顕著であることに起因している。 いいかえれば、初期の冬の季節風は一般的に弱いから、季節風の日本における南限に近いところの方が地球温暖化の影響は明瞭なためと思われる。

木枯らしの異常気象

 春一番は日本海に低気圧が入って発達した時に吹く。特に西日本から中部地方・関東地方まで顕著である。いわば、低気圧活動にともなう風で、気象学ではシ ノプティック・スケールの風である。それに比較して、木枯らしは関東平野の空っ風と同じで、局地風のスケールで、一回り小さいスケールである。冬の季節風 はもちろん大きなスケールであるが、木枯らしが日本の中で、どこでもよく発達するわけではない。
 しかし、木枯らしという表現は1,000年も前からわれわれの心に刻み込まれているのだから、これがもし、吹かないようになったらば、これは異常気象と言わざるを得ないであろう。
  (源氏物語1001-14頃)宿木
  「こがらしの堪え難きまで吹きとはしたるに、残る梢もなく散り敷きたる紅葉を。。。。」
という風情は、日本人が持つ晩秋から初冬へかけての心である。死者が何人、倒壊家屋が何軒。。。。という結果をみるものだけが異常気象ではあるまい。心の奥深くがえぐられることの方が、場合によっては被害が深刻なのではないかと思う。

 


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