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異常気象を追う

No.32

2009.06.10

吉野正敏

世界と日本の洪水

洪水・鉄砲水・都市型降雨・都市型洪水

 異常気象にともなう数々の災害のうち、近年、特に目立つのが、洪水・鉄砲水・都市型降雨・都市型洪水である。不幸にして、日本は昔から洪水が多い。出雲の国の神話ですら、斐伊川上流部の洪水対策に成功したことが、国造りに関連したように組み立てられている。
 農村地帯では河川の堤防が決壊して水田地域は一面の水面になってしまう。集落内に水が入り、各家の床下浸水、やがては床上浸水となる。このような風景が 毎年どこかでみられる。川の水量は急に増加し、水位があがり、濁流が川幅いっぱいに流れるさまも、テレビでよく目にする。避難が遅れれば水に流され、水死 する。
 日本には“鉄砲水”という語がある。もとは山間地の小河川で、夏の夕立のあとなど、急に水かさが増し急流が出現するさまを言う。英語の“フラッシュ洪水 (flash flood)”がこれに相当するのであろう。群馬県の利根川の最上流部地域で、このような鉄砲水を“猫まくり”と呼ぶと聞いたことがあるが、語源は不詳で ある。よく発生するが、人命にかかわることはまれであったようである。縄張り巡回中の猫が、あまりに急な増水で我が家にもどれず、困っているさまが何とな く想像できる。言ってみれば、悠長な風景ではある。
 ところが、近年、都市で鉄砲水がよく起こるようになった。都市人口の増加や都市域の面積拡大、それにともなって排水形態は変化するが、対策はそれに対応 しきれず、排水能力が低下するため、時間をかけてゆるやかに流出することができず、都市内の小河川に流れはいり、鉄砲水となる。また、都市域における降雨 も、都市における蓄熱のため局地的に強くなる場合が多くなり、狭い地域に強雨・豪雨が集中するようになる。都市型降雨の発生回数が増えている。都市河川内 で仕事中の作業員が短時間に急に増水したために、逃げ遅れて水死するという事故も発生している。

世界の洪水の発生回数の変化

 (図1)は1980年から2006年までの世界における災害の種類別の発生回数の変化を示す。ここで言う災害の回数とは、大きなリスク損害の報告件数である。最近、国連がまとめた「災害リスク軽減に関する地球アセスメント報告2009」のデータによる。

(図1)洪水・降雨などによる非常に大きなリスク損害の報告数の変化、1980-2006
(United Nations, 2009, Risk and poverty in a changing climateによる)


 干ばつ、熱波、寒波、高潮などは大きな増加傾向は見られないが、洪水、鉄砲水、都市型降雨、都市型洪水の近年の増加は極めてはっきりしている。特に 1990年代以来の急激な増加の傾向は著しく、最近、その発生回数は2,000件を上回る。また、注目したいのは、1983、1988、1993、 1998、2004年にピークがでており、5-6年の間隔で明瞭な極大が現れている。そのピークは近年になるほどするどく、しかも、大きい。
 次いで、火災・森林火災が目立った増加傾向を示している。しかし、最近でも1,000件がピークで、波形も上記の洪水などの場合より不規則である。漂砂・なだれ・地すべりなども増加傾向は認められるが、近年でも、1,000件以下である。

世界の重大災害


 世界の重大な災害とはどのようなものであろうか。日本の大きな災害の特色はどうであろうか。まず、(表1)に世界の大災害を死者の数で第1位から第10位まで上げた。

(表1)近年における死者数からみた第1位から10位までの大災害。1975年1月から2008年6月までの統計*

順位国名災害死者数
11983エチオピア干ばつ300,000
21976中国唐山地震242,000
32004南インド洋インド洋津波226,408
41983スーダン干ばつ150,000
51991バングラデシュサイクロン“ゴルキー”138,866
62008ミャンマーサイクロン“ナルギス”133,655**
71981モザンビーク 南モザンビーク干ばつ 100,000
82008中国四川地震87,476
92005インド・パキスタンカシミール地震73,338
102003ヨーロッパヨーロッパ熱波56,809***

*データは、UN(2009):Risk and poverty in a changing climate. 207 pages.による。
**連続エッセイ[6]を参考にされたし。
***連続エッセイ[9]を参考にされたし。

この(表1)からわかることは以下の通りである。(1)アフリカの干ばつによる死者数が多い。(2)南アジアのサイクロンによる死者数は多い。(3)死者 数が多い大地震の回数が10の内の3をしめる。もし、津波を含めると4となる。(4)第10位だがヨーロッパの熱波を注目すべきである。地球温暖化と関連 しているかも知れない。(5)死者数からみたこの表に、日本はでてこない。
 次に世界における近年の大災害を、被害額の第1位から第10位までによって考えたい。

(表2)近年の被害額からみた第1位から第10位までの大災害。(1975年1月から2008年6月の統計)*

順位国名災害被害額 (×10憶ドル)

12005アメリカ合衆国 ハリケーン“カトリーナ”** 125
21995日本神戸地震100
32008中国四川地震30
41998中国揚子江洪水30
52004日本中越地震28
61992アメリカ合衆国ハリケーン“アンドリュー”**26.5
71980イタリアイルピニア地震20
82004アメリカ合衆国ハリケーン“イヴァン”18
91997インドネシア林野火災17
101994アメリカ合衆国ノースリッジ地震16.5

*データ源は(表1)と同じ
**吉野正敏(2008):世界の風・日本の風。成山堂書店。を参考にされたし。

(表2)からわかることをまとめると次の通りである。(1)アメリカ合衆国のハリケーンによる被害額は非常に大きい。(2)日本の地震による被害は2件は いっており、台風を上回る。(3)中国も地震が2件はいっている。日本と同様である。(4)第10位までに5件が地震であり、異常気象と半々である。 (5)第9位のインドネシアの林野火災は近年の人間活動と乾季にかかわる気候の問題である点に注目しなければならない。
 このように、死者数でみた場合と経済的被害額でみた場合ではかなり違いがある。特に日本は、死者数は諸外国に比べて少ないが、被害額からみると、世界でも屈指と言わねばならない。


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