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異常気象を追う

No.39

2009.09.16

吉野正敏

ススキの季節異常

秋の王者:ススキ

 暑かった夏、雨ばかりの夏、人によって印象はさまざまだろうが、いつの間にか、朝夕の冷え込みが話題になる秋になった。澄みきった青空のどこかには、うろこ雲など秋の雲が浮かんでいる。飛行機雲もよく出る。
 地上では、ススキが人びとの心をとらえる。少し郊外へでると、僅かの空き地でもススキが穂をだしている。里山のまわり、山やまの斜面では、群落となった ススキがいっせいに穂を出し、じゅうたんのように一面を覆い、風になびく。あまりにもよく手入れされた田畑、よく管理された公園などには、かえってススキ は見当たらず、少々ほうりだされた土地をススキは支配するようである。火山斜面などの草原はまさにススキの大舞台である。8月の中旬・下旬から9月下旬ま でを中心とした季節にススキは穂を出し、開花する。
 ススキの開花日とは、「葉鞘(ようしょう)から抜きでた穂の数が、穂が出ると予想される全体の20%に達した日」とされる。日本では20世紀の前半から 毎年の記録がある。全国の気象台・測候所が観測した結果で、大後美保・中原孫吉らが整理し、1940年代・1950年代に日本の植物季節の全体像を明らか にした。1953年からは、マニュアル化した生物季節観測指針にもとずく観測が行われ、ススキの開花日はその1項目として記録が残っている。

2009年のススキの季節

 今年の夏は近年としてはあまり厳しい暑さがなかった。6-8月の日照時間は平年の70-90%で、特に東北地方や北海道の1部では日照不足であった。豪 雨による災害が西日本で相次いだ。東北・北陸・中国地方では“梅雨明け”が特定できない、言いかえれば、盛夏がはっきりしないという異常な夏であった。し たがって、秋は早く来た。
 ススキの開花は北日本では早く始まった。例えば、開花日は仙台で8月6日、平年より3日早く、山形は8月7日で平年より9日早かった。函館では8月11 日で平年より14日早かった。西日本でも、四国の松山では8月22日で平年より24日早かったし、岡山では8月27日で平年より14日早かった記録があ る。一方、例外的に盛岡は9月2日で6日遅く、新潟は9月2日で4日遅かった。青森では8月29日で平年と同じ、また、東北地方が早かったと言っても、平 年より1日早かったのが秋田・福島などである。

(写真1)ススキの開花から満開へ。2009年9月9日、岩手県雫石にて。 (上)開花から約3日後、(中)約5日後、(下)満開。(吉野撮影)

 (写真1)は今年の9月9日に盛岡の近く、奥羽山脈よりの雫石で撮影したススキの開花状況である。ここでは、おおまかには9月6日頃が開花日であったと 思われる。(写真1)(上)は開花日から約3日後、(中)は約5日後、(下)は満開の状態を示す。一つの問題は、“この3枚の写真はそれぞれ数m~十数m 離れたところで撮影しているのだから、この地点の開花日はいつと記録するのか”である。微気象、群落の構成、土壌などの差が狭い面積の中でも大きく、“あ る地点の開花日”の代表性について、まだまだはっきりしない点が多い。サクラの開花日などは標本木をきめて毎年同じ木の観測記録をえられるが、ススキのよ うに、沖縄を除いて、冬には地上部が枯れる草本の場合、むずかしさがある。地方ごとの差、日本全体の季節推移・異常の地域差などを論じる場合、これを考慮 にいれておかねばならない。

季節異常の年による違い

 ススキの開花が、“平年より「遅い」か、「早い」か”を、日本国内の観測地点について、日数別の出現頻度(%)を調べた。2005年、2006年、 2007年、2008年について求めた結果は(表1)のとうりである。 観測地点数は表の最下行に記してあるように47地点から67地点までの開きがあ る。実際には記録を取っている地点数はもっと多いと思うが、ここでは速報値の記録を使ったので、このような差がある。従って、頻度は、年による違いを見る ために、%で示した。この表からわかることは以下のようにまとめられよう。
(1)全般的に、平年より「遅い」方が、「早い」より多い。これは平年値が1971-2000年の30年の平均だから、近年の温暖化の影響であろう。

(表1)ススキの開花が平年より「遅い」または「早い」の日数別にみた日本国内の観測地点の出現頻度(%)、2005-2008年

平年より2005年2006年2007年2008年

「遅い」
31日以上0150
21-3096710
11-2012231514
1-1052404542

04478

「早い」
1-1014241225
11-207072
21-300000
31日以上2220

 100100100100

観測地点数56674759

(2)2007年は「遅い」日の頻度がこの4年間では最も多かった。まだ、記憶に新しいが2007年8月は全国的に高温、中旬には熊谷・多治見で40.9℃を観測した年である。日照時間も多かった。9月になっても非常な高温か続き、長い暑い夏であった。それが反映した。
(3)2008年、8月の気温は平年並み、9月はやや高温で、日照時間は多かった。8月末には豪雨があった。冷夏とはいえないが、気温の平年並みの状態のときこのような「遅い」と「早い」の出現比率になっていると理解してよかろう。
(4)平年より「遅い」日が21-30日、31日以上の頻度が2007年にはめだって多い。これらの地点は、鹿児島・和歌山・西郷・静岡・銚子で、関東以西の海岸である。
(5)「遅い」がよく現れる2-3の都市の例を(表2)にしめす。ヒートアイランドと局地気流(山越え気流、海風など)の影響が明らかで、共通点がある。なかでも名古屋において、ススキの開花からみた秋の到来は約20日から30日以上も遅れる。

(表2)ヒートアイランドと局地気流の影響がススキの開花日の「遅れ」に及ぼす影響

熊谷
開花日   平年より
        遅れ
東京
開花日   平年より
        遅れ
名古屋
開花日   平年より
        遅れ

20069/2620日9/72日10/1235日
20079/1913日9/94日9/2619日
20089/2115日10/328日9/2922日
2009? 9/72日?

(2009年の値は9月10日現在)

(6)(表1)には極端に「早い」日の記録がある。この極値の代表性はうすいと推定される。理由は、実際の日付けは付近の地点と大差がない。つまり平年値 に問題がありそうで、1971-2000年の状態から非常に環境が変わった――言い換えれば、上に述べたような微気象・植生の構成・土壌条件などが大きく 変わった――のではなかろうか。


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