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異常気象を追う

No.36

2009.08.05

吉野正敏

熱波による死者数

熱波の定義

 熱波についてはこの連続エッセイで何回かふれた。連続エッセイ[9]では熱波と猛暑に関して、2007年7月のヨーロッパの例を紹介した。ヨーロッパ全体で52,000人の死者がでたことは、異常気象の影響の最たるものであった。次いで、連続エッセイ[11]では、異常高温について、特にアジア全体、中国における局地性を述べた。さらに、中国の異常高温については、連続エッセイ[29]で、近年の増加傾向を指摘した。また、インドについては、熱波の発生状況、熱波による死者数を、連続エッセイ[35]でかなり詳しく紹介した。そこで、今回はそれらの総まとめとして、異常高温と熱波の違い、熱波による死者数の国による違い、統計的な研究などについて述べたい。
 先ず熱波だが、その定義は国際的にみて違いがあり、かなりの差がある。インドでは、日最高気温の平年値が40℃以上の地点で、日中の気温がそれを 3-4℃上回る場合、“熱波の影響がある”と言う。もし、5-6℃の場合、“中程度の熱波”という。そして、6℃以上の場合、“厳しい熱波”という。
 中国のある研究では熱波指数を日最高気温と相対湿度との関数として求める実験式がえられた。その値によって軽・中・重の3グループにわけた。そこでは、 “第1段階の高温”の条件は、日最高気温が35℃以上かそれに等しい場合を“高温”と呼び、38℃以上かそれに等しい場合を“危険な高温”と呼んだ。“第 2段階の高温”の条件は、35℃かそれ以上の日が5日以上連続するか、38℃かそれ以上の日が2日以上連続する場合とした。“第3段階の高温”の条件は、 35℃かそれ以上の日が8日以上連続するか、38℃かそれ以上の日が3日以上連続する場合とした。この結果を参考にすれば、他の地域についても定義ができ あがる。われわれの課題は、上記の35℃、あるいは38℃を地球が温暖化した場合、37℃、あるいは40℃と置き換えればよいのか、また2日、3日、8日 などと言う日数の条件を厳しくし考えて増やせばよいのか、などである。連続エッセイ[35]にも熱波に関する基本的な定義について書いたので、参考にしていただければ幸いである。

中国における高温による死者数

 中国における高温日の日数は最近の特に約10年間、増加傾向が明らかである。これについては連続エッセイ[29]で 詳しく紹介した。しかし、筆者が最近関心をもって集めている資料では、中国では熱波による死者数はインドよりひと桁少ない。インドでは、近年の熱波では千 の桁数の死者数が報告されているが、中国では熱波による死者数は多い年でも百の桁数である。もちろん熱波の程度や規模がそもそも異なるのが原因かも知れな い。
 ある災害による死者数の絶対値は、その地域の人口密度に関係するから、比較は簡単にはできないだろう。しかし、インドの死者数はどうもホームレスや都市 周辺の簡易住宅に住む貧困層の人たち、すなわち、社会的弱者が主であり、中国の場合は、病院などの診療機関のいわゆる公的データにもとずく集計である。し たがって、中国では、死者数に関する気象条件の統計学的な解析が進んでいる。
 このほか、高温は人体に直接的に影響をおよぼすが間接的な影響が大きい。高温な異常気象は乾燥をともなうことが多く、農作物への被害、水道水の不足、電 力不足などに影響し、また、高温は食品衛生条件の悪化や持病の悪化などの原因となる。このような社会・経済状態に深刻な影響をもたらすので、中国の近年の 死者数が百の桁にとどまっているのは経済発展にともなう環境整備力がついてきたことの反映でもあろう。

日本の問題

 日本では熱波の影響に関する検討がいま一つおくれている。熱波あるいは異常高温による死者数は多い年でも十の桁である。熱中症の予報精度がたかまり、熱中症対策の知識も普及し、また医療体制も整ってきているので、死者の数は減少している。
 しかし、日本では熱波が自然災害に含まれないことが多く、古い時代の熱波による死者数の統計がない。熊谷市や多治見市の最近の観測例では異常高温が出現 しているが死者が出るまでにはいたらないのが幸いである。けれども、2007年のヨーロッパ諸国の例があるように、医療体制の先進諸国でもいつ多数の死者 がでるような状態になるか、予断を許さない。まして、高齢者は高温に弱いので、今後ますます熱波対策を高める必要がある。日本の実情に適した定義による予 報や対策の立案が重要である。


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