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風を歩く

No.18

2006.02.13

吉野正敏

家を囲む防風林・防風垣

 風が強い地域では、宅地の風に面した方向に防風林や防風垣を仕立て、家を守る。強い風が多方向からくる場合は、取り囲む方向も多くなり、完全に四方を取り囲むことも、まれでない。
 防風林や防風垣は風を弱める効果ばかりではない。ほこりの侵入を防いだり、周辺の騒音を防いだり、衛生環境をよくするという効果もある。さらに、むかしは、倒木や枯れ枝を燃料にしたし、タケや、樹木の幹や枝は用材になった。また、生態学的なサイクルの1部を担っていることも見逃せない機能である。小鳥や小動物を呼び寄せ、それらが周囲の田畑の害虫を駆除してくれるし、落ち葉は肥料となるなど、たくさんの価値ある機能をもっている。さらに、景観として見事に地域にとけこんでいる。地域にこれほど有益なものはないと言えよう。防風林と防風垣の区別は必ずしもはっきりしないが、林の厚さ(樹列)はうすく、高さがせいぜい4-5m、構成する樹種は2-3種まで、そして刈り込みの手入れがよくできているものが防風垣であろう。

(写真1)つくば市の宅地防風垣。上部はシラカシ、下部はマサキ。

 (写真1)は関東平野で冬の季節風“空っ風”が卓越する茨城県南部のつくば市の例である。外から内部の屋敷はみえないくらい完全に防風垣が囲んでいる。

(写真2)関東平野の典型的な宅地防風林(背後)と防風垣(前面)をもつ農家。

 (写真2)は同じく関東平野の典型的な宅地防風林(背後)と防風垣(前面)である。防風垣は(写真1)と同じく、上段はシラカシ、下段はマサキで、この地方で、最もポピュラーな樹種である。(写真2)の背後の防風林は2階家の屋根よりさらに2-3m高く、多種類の常緑広葉樹からなる。タケやスギが見える。むかしは用材の価値が高かったのであろうが、現在でも、日本人が好む景観をつくりだしている。(写真2)でわかるように上段と下段の間に隙間があるが、このほうが減風効果は大である。

(写真3)ドイツとベルギーとの国境のアルデンヌ高原にあるインゲンブライヒの農家の防風垣。 1984年5月24日写。吉野撮影©

 (写真3)はドイツとベルギーの国境にあるアルデンヌ高原上の農家とその防風垣の例である。ここは、海抜は数百mで高くはないが、大西洋からの偏西風が直接あたり、強い風がいつでも吹いている。そのため、厚く、背の高い防風垣に農家は囲まれている。樹種はブナの仲間、ロートブーヘン(直訳すれば赤ブナ)である。この写真を撮ったのが5月で新緑のころだったので、葉はみどり色だが、夏から秋にかけて濃い赤紫になる。それでロートブーヘンとよばれる。
 (写真1)と(写真3)を見比べると、いかにもよく似ている。関東平野とアルデンヌ高原とでは、住んでいる農家の人びとの文化・歴史・生活・習慣などすべてまったく異なるが、家を囲む防風垣という“自然環境条件に対処する方策”では、まったく同じというところがおもしろい。樹種こそ違うが形態は見間違うほどである。

(写真4)同じインゲンブライヒの農家。ロートブーヘンの防風垣をもつ。 1984年5月23日写。吉野撮影©

 (写真4)はアルデンヌ高原の中のモンシャウという町の近く、インゲンブライヒ((写真3)と同じ地域)の農家で、防風林と防風垣に守られている。この写真の画面左が卓越風に面する西側である。東側(風の陰になる側)は玄関・車庫の入り口がある。


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