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風を歩く

No.20

2006.03.13

吉野正敏

風通し―熱帯の高床住宅―

 熱帯の住家は風通しがよい高床が多い。日本の住宅も、昔の木造時代は、人が這って入れるくらいの床下があって、風が自由に吹きぬけ、地面からの湿気を運び去ってくれた。東南アジアでは、農村はもちろん都会にも、高床の家が多い。今回は、北部タイの家を例にとって、高床住宅を考えてみたい。
 タイの歴史は古く、タイ人の起源は中国南部の雲南高原という。北からの中国の圧力によって次第に南下し、現在の北部タイを中心としてタイ王国が6世紀末に成立した。チェンマイは北部タイの古い都で、日本でいえば京都のようなところである。昨今、日本人の観光客にも人気が高い美しい町である。チェンマイ大学は非常にレベルが高い。チェンマイの北東、約200kmにチェンライの町がある。近くには黄金の三角地(Golden Triangle)がある。ここはタイとミャンマー(ビルマ)とラオスの3国が国境を接する要地である。国境線はメコン河とそれに注ぐ支流できまっており、船で容易に往来できる。さらにメコン河の上流、約100km先には中国の国境がある。この地域は、南北間の人間・物資・文化すべて、昔からの交流の要である。このような位置にあるので、チェンライの住宅形式には、当然のことながら、亜熱帯の雲南と、熱帯のタイ南部と、両方の影響が強い。

(写真1)タイ北部、チェンライ付近の高床式の古い農家。 2000年12月29日 吉野撮影©

(写真1)タイ北部、チェンライ付近の高床式の古い農家。 2000年12月29日 吉野撮影©

 (写真1)はチェンライ付近の古い農家である。高床、藁葺きのこのような農家は最近では少ししか残ってない。床は地上1.5m弱の高さである。妻入りのように部屋は開口しているが、階段は横(写真の画面で奥の方)にある。棟は写真を撮った時点ではトタンで抑えてあるが、昔は何を使っていたか不明である。また、そのトタンと屋根の上部を抑えている木の棒も特徴がある。

(写真2)タイ北部、チェンライ市内の高床住宅。 2000年12月29日 吉野撮影©

(写真2)タイ北部、チェンライ市内の高床住宅。 2000年12月29日 吉野撮影©

 (写真2)はチェンライ市内でみた完全な形式の高床住家である。この写真は2000年に撮影したが、そのころでも、このように純粋な高床住家は少なかった。この家は敷地も広く、ハイクラスの市民が住むとおもわれた。床の高さは自動車の屋根とほぼ同じである。

(写真3)チェンライ市郊外の新築高床住宅。 2000年12月29日 吉野撮影©

(写真3)チェンライ市郊外の新築高床住宅。 2000年12月29日 吉野撮影©

 (写真3)は同じくチェンライ市内郊外の新築の高床住宅である。特徴は、次のようである。(1)妻入りだが階段は横から上がるようになっていて、古い形式からの伝統がまもられている。(2)階段は二つあり、正面の玄関・応接間に入るものの他に画面左に台所・居間に直接入る階段がある。(3)台所の床下は定常的な物置場の設計になっている。古くは一時的な物置場であった。以上をまとめると、この家は新しい設計による新築家屋だが、古い伝統がうけつがれ、高温・多湿を軽減するために風による乾燥効果を考慮して“風通し”をよくしている。まさに優等生的な家というべきであろう。

(写真4) チェンライの北部、“黄金の三角 地”(Golden Triangle)の近く で、ミャンマーからタイへ移住して きた農家。 1階部分は居住空間として改造さ れ、利用されている。 2000年12月28日 吉野撮影©

 ところが、興味あることを示す例を一つあげたい。(写真4)はチェンライの北東、黄金の三角地の近くで、近年、ミャンマーからタイへ移住してきた農民の家である。原型は高床住宅であったものを、床下(1階にみえる白壁の部分)を改造して居住できるようにしたものである。土地のタイ人によると、この付近には何世帯かのミャンマーからの農民が住んでいるが、このように改造してしまうとのことであった。その理由はよくはわからないが、(1)移住農民は収入が少なく、かつ、1世帯に多数の家族が住む必要に迫られ、“風通し”対策は二の次なのか。(2)タイ人の高床住宅は、私が知る限りでは、雲南の南部の谷間や盆地の米作地域に住むタイ人の農民の集落でみられ、これがチェンライ地方につながる。言わば、この分布範囲はタイ文化の伝統の範囲であって、ミャンマーからの人たちには、関係のないことなのであろうか。(3)上記の一つまたは二つの理由が大きく、「高温・多湿・風通し」などの自然環境対策は強い意味を持たないのであろうか。
 これは、今後のおもしろい研究課題である。


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