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風を歩く

No.31

2006.08.14

吉野正敏

海南島の台風対策―チャとゴムの樹の多層栽培

 台湾とフイリッピンのルソン島との間のバシー海峡(ルソン海峡)は、東から西に向かって進んできた台風がよく通りぬける路である。その台風経路の突き当たりが海南島である。特に、7・8・9月の台風シーズンにここをよく通過し、海南島を直撃するという特徴がはっきりする。8月や9月には、月平均で11-13%、言い換えれば3日ないし4日は海南島の東部に来襲または接近する。別の統計によれば、海南島への台風上陸数は8月・9月は月に3.3個である。
 このようなところだから、台風による被害が大きく、強風・大雨・高潮などの災害がよく発生する。そのうち、強風災害が最も大きい。例えば、1973年の台風14号は海南島の北東部に上陸し、10分間平均風速で毎秒48mを記録した。推定では最大瞬間風速は毎秒70m、気圧は925hPaまで降下した。建物の倒壊は15万戸、死者は900人以上に達した。
 海南島は行政的には、広東省から独立して、現在は海南省になっている。面積は大で、台湾に次ぐ大きな島とは言え、日本全土が受け止めているのと同じくらいの個数の強い台風をこの島だけで受け止めねばならないのだから、その対策は充分にしておかねばならない。経済的な対策も考えておかねばならない。今回紹介するチャとゴムの樹の栽培は約25年前の農業生産環境下の状況で、今日のように観光産業が発達していなかったころの状況である。当時、ゴムの国内生産を中国政府は強力に進めていた。しかし、ゴムの樹は熱帯植物で、海南島は熱帯のほぼ北限に位置しているので、生産性はよくないし、台風の被害、寒波の被害など、厳しい条件下にあった。安い良質のゴムを輸入したほうがよいのだが、当時の中国の外貨準備高は不足していたので、どうしても国内で生産高をあげねばならなかった。多層栽培は、このような事情のもとにチャとゴムの生産性向上の目的に沿い、台風対策を考慮した当時の栽培法として、非常に高度のものと思うので、書いておきたい。

(写真1)中国の海南島黄竹農場におけるチャ畑と1列のゴムの樹による多層栽培。

(写真1)中国の海南島黄竹農場におけるチャ畑と1列のゴムの樹による多層栽培。

 (写真1)は海南島の南東部にある黄竹の農場のチャとゴムの樹の2層栽培である。多層栽培とは草丈・樹高が異なる作物を組み合わせ、農園の上層・中層・下層を利用して栽培する方法である。ここでは、チャは数十cmから約1mの高さで、その中に、3-5mの樹高のゴムの樹列が入る例である。チャは強風に見舞われると落葉・枝折れなどのほか、葉の表面から蒸発散作用によって多量の水分をうばわれ、葉がかたくなり、品質がさがる。これに対して、ゴムの樹は強風が吹かない好天のときは日陰をつくるシェイドツリーの役割を果たし、台風にともなう強風のときは、風速を弱める。
 多層栽培は生態学的な意義も大きい。背の高い樹の落ち葉は低い樹、ここではチャ、の肥料となり、高い樹にくる小鳥は低い樹の害虫を食べるなど、生態学的サイクルに好条件をもたらす。経済的には、もし、チャの被害が大きい場合でも、ゴムの生産からの収入があれば、農場経営の危機を脱することができる。
 なお、(写真1)で見られるようなゴムの樹列を含むチャ畑を幾つか集めてさらに大きな単位にくくり、十数mないし約二十mの樹高の防風林で囲む。これを含めて考えれば、3層栽培となる。防風林の中で最も樹高が高く25mにも達するのはユーカリで、十数mの上部だけ葉をつける。2番目に高い防風林はアカシアで15m内外に成長している。
 農作物への台風による被害は、言うまでもなく、台風の経路・強弱・時期などによって異なる。したがって、1枚の畑、1農場の単位では、多種類の作物を栽培するほど、リスクは分散される。多層栽培は経済的な損害を分散させるのに、役立っている。

 (写真2)同じ、黄竹農場における茶摘。

(写真2)同じ、黄竹農場における茶摘。

(写真3)同じ、黄竹農場における多層栽培の新しい設計。

(写真3)同じ、黄竹農場における多層栽培の新しい設計。

 この農場における茶摘の風景。温帯のように茶摘の季節(回数)が限られていないので、大人数が一斉にやる必要はない。台風の襲来を予想し、被害を最少にするように考えて、少しずつ手で摘むほうが、高価な良質のチャの葉を収穫できる。
 (写真3)は、1980年代初めころの新しい設計によるチャ畑に入るゴムの樹列である。ゴムの樹は4本で1単位とし、台風に対する抵抗力を高める。チャ畑の面積に対するゴムの樹列の面積割合は大きくなるが、チャの被害は小さくなる。

(写真4)海南島北部の宝島農場におけるコショウ(石の支柱)栽培。 以上、写真1~4、いずれも1984年12月、吉野撮影©

(写真4)海南島北部の宝島農場におけるコショウ(石の支柱)栽培。
以上、写真1~4、いずれも1984年12月、吉野撮影©

 (写真4)はゴム園の中におけるコショウ栽培の風景である。石柱は、高温多湿ですぐにくさる竹や樹の枝などのようなことはないし、重量から見ても風に対して非常に強い。周辺のゴム園の樹の密度も大である。
 時代の要求がもし変わってくるとしても、作物の種類を変えるだけで、考え方はかえないで欲しい。世界の市場でもすでに注目されている高級な品質の海南島のチャである。一方、台風の活動は地球温暖化で活発になる傾向がある。防風林は絶対に必要で、その設計に検討の余地があるとしても、樹の成長には年数がかかり、生態学的な配慮をしながら、ゆっくりと対応してゆくのが賢明であろう。


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