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お天気豆知識

雲の記事一覧

No.80

2007.9 Categories中層雲

高層雲


(写真1)高積雲に覆われた空(横浜市都筑区にて)

 中層雲の仲間の高層雲(写真1)は厚いベールのような雲です。学名では「アルトストラタス(Altostratus)」と言います。 高積雲でも書きましたが、“アルト”は“高い”と言う意味で、“ストラタス”は巻層雲で書いたように“広げられた”という意味で、どちらもラテン語です。 日本ではこの雲のことを「おぼろ雲」とも言っています。 
 この雲が出ているときに写真を撮ると、(写真1)のように画面全体がくすんだ色となってしまいます。「菜の花畠に入日薄れ・・・」の歌の題名で、春に桜の花見の頃によく現れる「朧(おぼろ)月夜」や、この季節に火が恋しくなるような肌寒い「花曇り」は高層雲によるものです。 (写真2)のように雪がある日にこの雲に覆われると寒々とした空になってしまいます。


(写真3)巻層雲と日暈

(写真2)雪の日の高層雲
(秋田県湯沢駅にて)

 上層雲に分類される巻層雲と中層雲に分類される高層雲はどちらもベールのような雲ですが大きな違いがあります。巻層雲が太陽を覆うとその周りに暈(写真3)ができましたが、高層雲ではでません。巻層雲を通して太陽を見るとまぶしくて見ることができませんが、高層雲の場合には太陽を見るとスリガラスを通してみたようにぼんやりとしています(写真2)。また、高層雲が太陽を覆ってしまうと木や建物の影ができません。


(写真4)厚み増した高層雲と
点のようになった太陽

 高層雲が厚みを増すと太陽は点のようになってしまいます(写真4)。こうなると天気が下り坂に向かっていることを意味しています。ちなみに(写真4)は2006年2月6日の昼過ぎに撮影しました。この日は夜になると雪が降り出し、低気圧の中心が接近した夜中には雨に変わりました。
 ときには雲の底は波打ってきて起伏が出来ることもあります(写真5)。写真をよく見ると、雲の底で毛羽立っているところがあり、そこからは雨が落ち始めています。高層雲の下にちぎれたような黒い雲が現れると、高層雲は乱層雲に変わり始めていて雨がすぐそこまで来ています。信州の天気俚諺を調べたところ、「くずれ雲が出ると雨」(中野市)や「ちぎれ雲が散乱して出ると雨」(南安曇郡)というのがありました。このことを言っているのかもしれません。


(写真5)船底のようになった高層雲
(雲の底が毛羽立っているところもある)

(写真6)天気が回復に向かうときの高層雲
(山の周辺には積雲や層雲がある)

 高層雲は天気が回復に向かうときにも現れます。雨が止み、次第に雲が高く薄くなっていくときに空全体をおおっていて、やがて切れ目が出来てきます。(写真6)がその例で、2004年10月21日に撮影しました。雲の切れ目が白っぽくなっていて、全体に明るい感じがしませんか。この日は台風21号の影響で午前中は雨が降り、午後から天気が回復に向かいました。見えている山は丹沢山塊で、その上でしょうか、積雲が出ています。中腹には層雲も出ています。高層雲は空全体をおおっている雲で、ロール状の部分は、その高さの風に対して直角な方向に並んでいます。
 高層雲は朝焼けや夕焼けで色づくこともあります。空全体をおおっている雲なので、朝日や夕日に照らされると、空全体が赤くなったりピンクになったりします。イギリス人が書いた雲の本を読んだところ、「高層雲はグレーの特徴のない雲だが、このときばかりは空がサーモンピンクから紫色へ変わり、優雅な雲に変身する」と書いてありました。日本では、単調な灰色の空となる高層雲も「朧雲」とか「花曇」などと優雅な名前で呼ばれています。四季の変化がある日本だから、単調な灰色の空にもこのような名前があるのかもしれません。

No.79

2007.8 Categories中層雲

高積雲


(写真1)高積雲

 高積雲(写真1)は白い塊の雲で、巻積雲と違って少し黒っぽい影の部分があります。巻積雲や層積雲と似ていますが、大きな違いは視角で、それは1度から5度です。


(写真2)空一面に広がった高積雲
(矢印で示した白い山が富士山、
シルエットは大山と丹沢山塊)

簡単な視角の測り方は、巻積雲のところに書きましたが、 腕をいっぱいに伸ばすと、人差し指の幅が1度、握りこぶしが10度、手を広げて小指から親指までの幅が22度です。 
  日本では、高積雲のことを「羊雲」とも言っていますね。学術名はアルト・キュムラス(Alto-cumulus)と言います。アルト(Alto-)はラテン語で“高い”を意味します。キュムラス(Cumulus)は巻積雲で書きましたが、ラテン語で“塊”を意味します。 高積雲が出来るのは大気の中層で、日本がある中緯度では、2kmから7kmの高さに現れます。10種雲型では中層雲に分類されています。(写真2)は高積雲が空一杯に広がっていて、写真の下の方に富士山(3,776m)があるのがわかるでしょうか。雲が富士山より高いところにあるのが実感できるかと思います。


(写真3)高積雲からの尾流雲

 高積雲の雲粒はほとんどが水滴で、高さが7㎞にもなると気温は0℃以下ですね。季節によっては、2㎞でも0℃以下となります。理科で「水は0℃から凍り始める」と習いました、水をゆっくりと冷やすと、0℃以下でも凍らないこともあります。雲粒のように小さな水滴はゆっくり冷やすと、氷点下30℃でも水滴でいることができ、このような水滴を、「過冷却水滴」といいます。雲粒が何かのきっかけで氷に変わると、水滴よりも氷粒の方が成長しやすいのでどんどん大きくなって落下します。(写真3)は高積雲から尾みたいなものが伸びていますが、これがそうで尾流雲と言っています。尾の部分が曲がっていますが、横にたなびいている部分の高さより上の部分高さで風速が強いからです。高積雲の部分は尾流雲を作りながらどんどん先に進んでいくの、このような形になりました。

 上空の強い風が山岳に当ると波ができ、それが山の風下側に伝わります。波の山の部分に雲が発生すると、(写真4)や(写真5)のようなレンズ雲となります。


(写真4)高積雲によるレンズ雲

(写真5)シルエットになったレンズ雲

(写真6)高積雲に出来た波動

 レンズ雲は様々な高さに出来ますが、高積雲が出来る高さのレンズ雲は高積雲に分類されます。レンズ雲の形は空飛ぶ円盤、UFOに似ていますね。富士山が笠をかぶったような雲(笠雲)が発生します。また、翼みたいな雲(翼雲)やコマみたいな雲(吊るし雲)も富士山の周辺に発生します。これらも、雲の高さから高積雲の仲間となります。また、高積雲はレンズ状の雲だけでなく、(写真6)のように、細かな波動が出来ることもあります。  
 富士山の笠雲や翼雲、吊るし雲は雨や強いかぜの前兆ですが、レンズ雲も寒冷前線の通過や上空の気圧の谷の通過を告げています。秋から春にかけて、晴れて穏やかな天気でも、レンズ雲が現れると強い風を吹かせることがよくあります。
 レンズ状雲は絵画の中で見ることができます。その一つが15世紀に活躍したイタリアの画家ピエロ・デラ・フランチェスカが描いた、アレッツォにあるサン・フランチェスコ聖堂の中央礼拝堂にある「聖木の運搬」で、吊るし雲に似た雲が描かれています。フランチェスカはイタリア北部に住んでいました。多分、山岳波動でできたレンズ雲や吊るし雲を見る機会が多かったのでしょう。このような雲が出ると天気が下り坂に向かうことを知っていたのかもしれません。この絵は、キリスト自身が翌日はりつけの刑で使われる十字架を自らかついで運んでいる場面です。普通雲を描くときは綿のような積雲を描きますが、翌日に起こることを暗示するために吊るし雲を描いたのかもしれません。

No.77

2007.6 Categories上層雲

巻層雲

 巻層雲(写真1)は薄いベールのような雲です。学名では“シーロストラタス(Cirrostratus)”と言います。ラテン語の“シーラス(Cirrus)”と“ストラタス(Stratus)”をつなげて出来た名前です。シーラスの意味は巻雲を見てください。Stratusはラテン語で、“広げられた”という意味です。この雲は薄いので、現れていても物の影はできるので、なかなか気がつかないことがあります。しかし、雲が厚みを増して太陽光線が弱まり物の影が薄くなったり、太陽光線による暖かさが弱まってくると、その存在に気がつくようになります。


(写真1)高層雲と暈(太陽と暈の視角は22度)

 巻層雲の雲粒は氷の結晶のことが多く、結晶の形が六角柱の場合は太陽の周りに暈を作ります。このため、巻層雲は(写真1)のように暈を伴った写真でよく紹介されます。この雲が厚みを増していくと暈はなくなります。また、雲のできる高さが低くなり雲粒が水滴になると、中層雲に分類される高層雲になります。高層雲では太陽はぼんやりとしていて、物の影はできません。このように巻層雲から高層雲に変化するときは、天気は下り坂に向かっています。この雲が作る日暈、月暈は、日本だけでなく外国でも天気が崩れる前兆として使われています。
 巻層雲は膜のようになっているだけでなく、巻雲のように羽毛状になることもあります。このタイプの巻層雲は雲の厚さがとても薄いため、太陽の周りに暈を作ることはありませんが、(写真2)のように幻日(げんじつ)を作ることがあります。(写真2)でオレンジ色の矢印のところに、虹の一部のようなものがあります。これが幻日で、暈と同じように、多くは太陽からの視角が22度のところに現れます。


(写真2)羽毛状の巻層雲と幻日(オレンジ色の矢印)

 巻層雲もときには波(波動)のような形になることがあります(写真3)。しかし、巻層雲が波のようになったものを日中に見分けることは雲自体が薄いので難しくなります。でも、太陽が下のほうからこの雲を照らす、日の出や日の入りには波の様子がはっきりします。この雲が空を覆うときはとても美しいものです。この波は、山岳の影響でできた波動のこともありますが、ほとんどの場合はこの雲がある高さで、上下方向に風速や風向の差があるときに発生した波によるものです。


(写真3)波動状の巻層雲(矢印の部分)

 「日の出、日の入り時の巻層雲の波動はとても美しい」とイギリスのCollinsという出版社の「Weather」(2004年出版)という本に書いてあったのを読みました。それから毎日注意して空を見ているのですが、確信を持って「これだ!」という現象に出会っていません。

No.75

2007.4 Categories上層雲

巻積雲


(写真1)巻積雲(雲の部分が上昇流、青空の部分が下降流)

 巻積雲(写真1)は、白い碁石を敷き詰めたような雲、魚の鱗のような雲で、青空を背景にして現れるときれいですね。太陽に照らされると、一つ一つが白く輝いています。巻積雲は別名、“うろこ雲”とか“鰯雲”とも言いますね。学名では“シーロキュムラス(Cirrocumulus)”と言います。ラテン語の“シーラス(Cirrus)”と“キュムラス(Cumulus)”をつなげて出来た名前です。シーラスの意味は巻雲を見てください。キュムラスはラテン語で、“積み重なったもの”とか“塊”という意味です。アメリカやイギリスで出版された雲の本を見ると、巻積雲の覆われた空を“鯖のような空(mackerel sky)”と言っています。(写真1)を見ると、雲の模様が鯖の肌のようにも見えますね。

 巻積雲は高積雲と間違えやすいですが、個々の雲の塊の大きさが違います。巻積雲の場合、水平線から30度以上の上空で雲の塊の大きさは視角で1度以下ですが、高積雲の場合は1度以上あります(図1)。ところで、角度はどのように測るかですが、まず腕をいっぱいに伸ばしてください。次に人差し指を立ててください。人差し指の幅で隠れる大きさが約1度です。ちなみに、握りこぶしの幅は、約10度、五本の指を全部広げたときの親指と小指の幅が約22度となります(図2)。  


(図1)巻積雲と高積雲の視角の違い

(図2)手で測る角度

 さらに巻積雲と高積雲の大きな違いは、巻積雲の場合雲に黒い部分が出来ません。それは、巻積雲も巻雲と同じように高いところに出来るため、そこでは水蒸気の量が少ないので、雲が薄いためです。雲の厚さが薄いため、太陽や月を雲を通して見ることが出来ます。ときには、光冠(写真2)や彩雲(雲の端が虹のような色になること)になることがあります。


(写真2)巻積雲による光冠

 巻積雲を作っている雲粒は氷ですが、まれに水滴のことがあります。もちろん、巻積雲は対流圏の上部にあり、そこの気温は0℃以下です。“水は0℃以下だと凍る”と理科で習ったと思います。しかし、0℃は水が凍り始める温度で、刺激を与えないようにしてゆっくりと冷やすと、0℃以下でも凍りません。まして、雲粒はとても小さいため-40℃近くまで水滴のままでいることが出来ます。このように、氷点下でも水つまり液体のままでいることを“過冷却”と言います。でも、どの巻積雲が氷でできているか過冷却水滴でできているかは、見ただけではなかなか分かりません。
 一般に、巻積雲は穏やかな対流(上下方向の運動)が湿った空気層内で起こると発生します。雲の塊があるところが上昇流域で、雲の塊から見える青空の部分が下降流域です。巻積雲から雲粒が落下して房毛のようになったり(写真3)、レンズのようになったりもします。(写真4)は巻積雲が集まってレンズのようになっていて、まるで魚の群れが空を泳いでいるように見えます。


(写真3)巻積雲から出来た房毛(矢印で示した部分)

(写真4)魚の群れのような巻積雲

 巻積雲が蜂の巣のような形になることがあり、蜂の巣巻積雲とも呼ばれています。形はあまりよくありませんが、(写真5)のような雲です。蜂の巣状の雲は高積雲でも現れ、一般に下降気流があるときに現れることが多く、晴天に向かうか、晴天が続くときの雲と見てよさそうです。ちなみに、(写真5)は昨年(2006年)の9月2日に横浜市北部で撮影したものです。天気図は省略しますが、秋雨前線が日本の南海上にあり、関東地方は北から高気圧に覆われていました。この雲を撮影した日も晴れていましたし、翌日も晴天でした。


(写真5)蜂の巣状の巻積雲

No.74

2007.3 Categories上層雲

巻雲


(写真1)日没後も赤く色づいた巻雲

 青空をバックに、色は白で縮れ毛のような、筋のような薄雲、引き伸ばした真綿のような薄い雲の巻雲、夕暮れのときは太陽が沈んでも赤やオレンジに染まっていてきれいですね。巻雲は別名“すじ雲”とも言い、学名では“シーラス(Cirrus)”と言います。シーラスはラテン語で縮れ毛、巻き髪という意味があります。
 巻雲は雲の中で一番高いところに発生します。このため、日没では他の雲よりも最も遅く、日の出のときは最も早く色づきます(写真1)。巻雲は空に広がっていても、太陽光を遮ることがないくらい薄い雲です。巻雲を通して太陽を見てもまぶしく、巻雲が太陽を覆っても影が出来ます。巻雲が発生しているのは、さまざまな気象現象が起こっている対流圏上部で、そこは水蒸気量が少なく、気温はもちろん氷点下で-40℃以下のところです。このため、巻雲を作っている雲粒は氷で、水蒸気量が少ないところの雲のため、薄い雲となります。

 巻雲といってもその形はいろいろです。髪の毛のような‘毛状巻雲’、ひな鳥の綿毛のような‘房状巻雲’、かぎ状に曲がった‘かぎ状巻雲’、もつれた糸のような‘もつれ状巻雲’、放射状に広がった‘放射状巻雲’、時には太陽を隠すような‘濃密巻雲’も現れます(写真2)。


毛状巻雲

房状巻雲

かぎ状巻雲

もつれ状巻雲

放射状巻雲

濃密巻雲

(写真2)いろいろな巻雲


(図1)鉤状の巻雲の構造

 巻雲は錠、あるいは塊の部分から筋のように尾を引くことがあります。地上から見るとすべて同じ高さに見えますが、(図1)のように塊と尾の部分は高さが違っています。塊のところで雲粒(氷)ができて、大きくなった雲粒(氷)が落下しながら蒸発しています。また、巻雲がある高さで上空ほど風速が強いと、雲粒ができる部分はどんどん先に進み、そこから落下する雲粒は雲粒ができる部分からおいていかれるようになります。このため、雲の塊と筋の先っぽの位置が違っています。

 巻雲は高気圧に覆われた晴天のときにも現れますが、低気圧や台風が近づいてくるときは真っ先に現れ、低気圧や台風が近づいてくるときは、巻雲の量がだんだん増えてきます。(写真3)は能登半島で撮影したものです。写真下の方に見える塊状の雲は積雲ですが、薄いもつれた雲が巻雲です。この日の朝はほとんど雲がなかったのですが、時間と共に巻雲が増え始め、夕方には全天を巻雲が覆いました。翌日は本州の南海上に秋雨前線が停滞して前線上には低気圧が発生し、能登半島付近は気圧の谷となり、天気は曇りで雨も降りました。
 積乱雲が発達しきるとその上部はカナトコ状となりますが、その最も高いところは巻雲です。(写真4)は兵庫県に雷雨を降らせた積乱雲によるカナトコ雲で、筋上に四方に噴出している部分は巻雲です。


(写真3)一面に広がった巻雲
(2001年9月2日志賀町にて)

(写真4)カナトコ雲の巻雲
(1997年7月31日枚方市にて)

No.57

2005.10 Categories雲の分類

10種雲形誕生の歴史

 毎日変化する雲、時間とともに形を変える雲、ときには動物の形に見えたり、食べ物に見えたりします。日本では雲の形から、「羊雲、綿雲、いわし雲・・・」という名前がありますが、雲の形は(表1)のように10種類に分けることができ、それを「10種雲形」といいます。その分類方法は世界共通です。

(表1)10種雲
層による分類雲の名前
英名
写真略号よく現れる高さ
極地方温帯地方熱帯地方
上層雲
巻雲
cirrus
Ci3~8km5~13km6~18km
巻積雲cirrocumulus
Cc
巻層雲cirrostratus
Cs
中層雲
高積雲altocumulus
Ac2~4km2~7km2~8km
高層雲altostratus
As
乱層雲nimbostratus
Ns
下層雲
層積雲stratocumulus
Sc地表面付近~2km
層雲stratus
St
垂直に発達する雲
積雲cumulus
Cu雲の底は下層雲と同じだが、雲の頂上は中・上層雲の高さまで発達することがある。
積乱雲cumulonimbus
Cb

 雲の分類は紀元前から試みられていましたが、(表1)の分類とその呼び名の基礎は、今から約200年前の19世紀始めに、イギリス人のハワード(Luke Howard:1772-1864)により作られました。ハワードは製薬会社の化学技術者で、気象学に関してはアマチュアでしたが、雲の変化や気象には学生の頃から興味を持っており、卒業後も気象の観測を続けていました。やがて、雲の分類の重要性を感じたハワードは、1802年の12月に科学的知識を持った若い人々の会合で、自ら作った雲の分類方法による雲の名前について書いた本を読み聞かせました。そのときの雲の名前の分類は当時学術用語として用いられていたラテン語をベースとする3種類でした。その後、分類方法に自ら改良を加え、7種類の雲の名前を創設しました。

 ハワードの創設した分類法による雲の名前は、世界各国で使われるようになりました。しかし、19世紀後半になると、多くの観測者が地域的な雲に対して独自の名前をその国の言葉で使うようになり、雲の分類に対して混乱が生じてきました。たとえば、同じ種類の雲に対して観測者独自の違う名前が使われることもありました。

 やがて、スウェーデンのヒルベルソン教授とイギリスの貴族アベルクロムビー卿が、観測者はそれぞれの雲に対して共通の名前を使う必要があることを提唱しました。彼らは1887年にハワードの分類とその名前を基にして、10種類の雲の分類とその名前を作りました。さらに世界中をめぐって雲の写真を撮り、雲の形は世界共通であることを示しました。その後、何回かの国際会議により改良が行われ、その思想は1951年にスイスのジュネーブに作られたWMOにも引き継がれ、今日世界中で使われている「10種雲」となりました。

 ハワードが雲の分類を提唱した18世紀には、フランス人のラマークも雲の分類方法を提唱していました。しかし、ラマークは雲の名前にラテン語を使わなかったため世界に広まりませんでした。さらに1809年にはときのフランス皇帝ナポレオンの命により、ラマークは雲の研究を止め、気象学の研究も止めてしまいました。しかし、現在使われている「10種雲」の分類思想にはラマークが提唱したものも入っています。

 また(表1)を見てください。「英名」と書いてありますが、この名前はラテン語を基にしたもので、気象関係者では共通語です。よく見ると、「Cumulus」、「Stratus」、「Cirrus」、「Nimbus」、「Alto(←altum)」の5つの言葉が入っています。

Cumulus(キュムラス):積み重なったもの、堆積、塊を意味します。
Stratus(ストラトス):平らにならしたもの、層を成して覆っているものを意味します。
Cirrus(シーラス):絡み合った毛、馬の毛の房を意味します。
Nimbus(ニンボス):雨や雪を意味します。
altum(アルトム):世界で最も高いところを意味します。

10種雲で英語の雲の名前はこれら5つの言葉の組み合わせとなっています。雲の形とその名前を合わせてみれば、なるほどと思うことでしょう。 


10種雲形

No.40

2004.5 Categories雲の不思議

雲のしっぽ

 雲は直径が5~10μm(1μmは1000分の1mm)のとても小さな水滴(筋雲やいわし雲のように、高いところにある雲は氷粒)が浮いている状態です。雲粒は雨粒と比べると遥かに小さい水滴です(大きさの比較はバックナンバー第6号「雨の降るしくみ」に掲載)。雲粒同士がくっつくなどして大きな粒子になって落下し、地面に到着すると雨として観測されます。その粒子が落ちてくる途中で蒸発すると雲に尻尾が出来ているように見え、これを尾流雲と言います。(図1参照)


雲から落ちてくる水滴が地面に着くと雨、途中で蒸発すると尾流雲。
(図1)雨と尾流雲

 尾流雲は主に、巻積雲(うろこ雲)、高積雲(ひつじ雲)、高層雲(おぼろ雲)
、乱層雲(雨雲)、層積雲、積雲(綿雲)、積乱雲(入道雲)に現れます。乱層雲や積乱雲のような乱雲の規模の大きい雲は違いますが、尾流雲が発生すると本体となる雲はやがて消えてしまうことがあります。

 下左の(写真1)を見ると雲から尻尾のようなものが左から右に垂れ下がっているのが分かると思います(矢印部分)。これが尾流雲で、母体となる雲は積雲でしょう。右の (写真2)は発達しきった積乱雲ですが、積乱雲の左側に雲のこぶから筋みたいにまっすぐ下に延びた部分(矢印部分)があります。これも尾流雲と言えるでしょう。


(写真1)積雲にできた尾流雲
(矢印部分)

(写真2)積乱雲にできた尾流雲(矢印部分)
(和田光明,中村則之,2000より)

 「尾流雲」は「Virga」の訳語です。水野量氏(1995年天気1月号)によると、この訳は元気象庁長官の吉武泰二氏が測器課長をなさっていた昭和20年代に、「ビルガ」→「ビリュウ」→「尾流雲」と連想し、その雲の名前が観測法改定委員会で認められ「地上気象観測法」(昭和25年1月(暫定版))に初めて載ったそうです。 モーパッサンの長編小説「Une Vie」を「女の一生」と訳されていることも吉武氏の連想のヒントとなったそうです。ちなみに、「Une Vie」を直訳すると「ある一生」だそうです。
 ところで、「Virga」はラテン語ですが、辞書をみると、小枝・そだ・棒・笏(しゃく)とありました。さらに辞書を読むと医学用語で体の一部を表す意味も載っていました。

No.33

2003.10 Categories雲の不思議

ノコギリの刃のような雲


(図1)

(図2)

 昔、どこかの店のショーウィンドウで見たような気がするのですが、それは濃度の違う液体が入っているガラスでできた箱で、傾けると液体の境界面が波立つという物です(図1)。
 この容器の中では、密度が大きい液体は下の方に向かって動き、密度が小さい液体は上の方に動き、その境界面に波ができます。 ガラスの水槽に真水と色を付けた塩水を入れてしばらくすると上は真水となり下が色の付いた塩水に分離するので、それを傾けてもその境には波ができます。
その波は、(図2)の(a)に示したように、最初はなめらかな波ですが、やがて波の頭の部分が盛り上がって来て渦巻きができ、やがてその渦巻きの中も埋め尽くされ、波は解消されます。
 一般に、密度が違う流体(液体や気体のこと)が接していて、それぞれの動く方向が違ったりお互いの速度が違うと境界面に「波」ができますが、それをケルビン・ヘルムホルツ波と言っています。ケルビン・ヘルムホルツ波は、(図2)に示したように時間とともに(a)から(d)へと波の形が変化し、やがてその波は解消します。

 当然、空気中にも密度が違う流れがあり、その境目では条件さえそろえばケルビン・ヘルムホルツ波は発生します。(図3)の写真を見てください。


(図3)1996年6月18日18時15分
大阪府枚方市南楠葉にて撮影

 雲の上側の部分が、ノコギリの刃のようになっています。正直、この雲を目の前にしたときは驚きました。この雲を見たときにケルビン・ヘルムホルツ波による雲という認識はなく、変わった形をした雲、異様な形をした雲だったので、とにかく写真に撮りました。しばらくの間、この雲を見ることができましたが、とにかく異様な雰囲気でした。この写真は、所々毛羽立っていますが、もっとみごとなケルビン・ヘルムホルツ波による雲の写真が表紙となっている本(図4)もあります。


(図4)「An Introduction to Atmospheric」
(Carmen J. Nappo,2002,ACADEMIC PRESS)

 航空機の飛行にとってやっかいな現象はいろいろありますが、ケルビン・ヘルツホルム波も航空機にとってやっかいな存在です。飛行機で旅行中、大きく揺れたりしたことが有りませんか?私も梅雨期に小松から羽田に飛んだときに乗っていた飛行機が大きく揺れ、ある乗客のテーブルからはコップが落っこち、中の物がこぼれたのを見たことがありました。また、旅客機が水平飛行中に急激に飛行高度が下がり、通路を歩いていた人が天井にたたきつけられてケガをしたというニュースを聞いたこともあります。

 飛行中の飛行機が激しく揺れたり、急激に飛行高度が下がったりする原因は、空気中の波動、すなわちケルビン・ヘルツホルム波による乱気流が関係しています。雲の中を飛行中に揺れることはありますが、時にはよく晴れたところを飛んでいても大きく揺れることがあります。これもケルビン・ヘルツホルム波による乱気流が関係していますが、空気が乾燥していたために雲が発生していません。このように晴天中に発生する乱気流を晴天乱気流と言います。

No.21

2003.2 Categories雲の不思議

UFOみたいな雲


(写真1)勝浦温泉(和歌山県勝浦町)にて
        2000年2月5日15時ごろ撮影

(写真2)いであ株式会社国土環境研究所
        (神奈川県横浜市都筑区)にて
        2003年2月15日16時ごろ撮影

 空にはいろいろな形の雲が浮かんでいます。時には動物に似ていたり、何か食べ物を連想したりします。
なかには、(写真1/写真2)のような、ツルンとした雲が現れることがあります。(写真1)は紀伊半島の和歌山県勝浦町で撮影した雲で、(写真2)は神奈川県横浜市都筑区早渕で撮影した雲です。まるで空飛ぶ円盤、UFOみたいですね。
この雲は形がレンズに似ていることから、レンズ状雲ともいっています。たいていの雲は見ているうちに形を変えながら移動していきますが、この雲はあまり形が変わらず、かなり長い時間同じ場所に留まっています。

雲は、小さな水滴、または小さな氷の粒からできています。これらの小さな水滴や氷粒は空気中の水蒸気が冷やされてできたものです。空気の塊は何らかの力を受けて上昇すると膨張し、温度が下がります。また、空気が含むことができる水蒸気の量は気温で決まっているので、空気塊が冷やされると限度以上の量の水蒸気は水滴に変わり、雲粒ができます。


(図1)空気の流れが山にぶつかり風下 に空
気の波ができる様子

空気が上昇する原因にはいろいろありますが、ある程度の早さ(風速)を持った空気の流れ(気流)が山にぶつかると、その山の風下には(図1)のような上下方向の空気の波ができます。空気は上昇すると冷えますから、ある高さになると雲粒が発生します。ところが、雲粒が流れていくうちに下降気流のところにくると、空気は圧縮されて温度が上がり、雲粒は蒸発してしまいます。上空の風の強さによりますが、波動ができる位置はあまり変化しません。このため、レンズ状の雲は長い時間同じ場所に留まっています。
(図2)は、この雲が発生している様子のもう少し細かい状況です。図の左側の青い線は高さによる湿度のようすです。そのままで雲ができるほどではありませんが、湿度の高いところが層のようになっていて、その上下は乾燥しています。


(図2)雲が発生する様子(Scorer,R.S,1972)

レンズ状雲は湿度が高い層の気流が山による波動で上昇し、ある高さ以上になった結果、雲が形成されます。しかし、その上下の気流は乾燥しているので、雲が発生しません。このため、空気の波動による雲はツルンとした形となります。ただし、ある程度湿った気流がどの程度上昇すると雲粒ができるかは、その気流の温度や湿度で変わってきます。
山による空気の波動の中を航空機が飛ぶと大きく揺れ、時にはとても危険な状態となります。この波動は、乾燥した気流でも湿った気流でもできます。湿った気流の波ならばレンズ状の雲が発生するので、その波がどこにあるかわかりますが、乾燥した空気ではどこに波があるかわかりません。
日本一の高さの富士山では、富士山による乾燥した気流の乱れが原因で、過去に悲しい事故が起こっています。富士山レーダーを建設する際にはヘリコプターで大きなレーダー・ドームを山頂に運んだように、夏は上空の風が弱いので、富士山の気流の乱れは小さく、ヘリコプターも山頂付近を飛ぶことができます。しかし、冬は上空の風が強いので富士山周辺は気流が乱れています。
1966年(昭和41年)3月には羽田発香港行きのイギリスのBOACの旅客機が富士山に接近しすぎて空中分解して富士山御殿場口に墜落して、乗客乗員全員が死亡しました。戦後すぐにもアメリカ軍の航空機が富士山に接近しすぎて富士山に不時着しています。このときは全員助かっています。
レンズ状の雲が現れると、その後強い風が吹いたり、翌日雨が降る場合もあります。この写真の雲が現れた翌日は、どちらも雨となりました。

参考文献:Scorer,R.S,1972: Clouds of the World: A Complete Colour Enecyclopedia, David and Charles Publishers, Newton Abbot, p65

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