温暖化と生きる
No.46
2011.10.12
吉野正敏
北海道の温暖化
高緯度地方の温暖化
気候の温暖化は低緯度地方より高緯度地方ではっきりしている。将来の気候を予測するシナリオはいろいろあり、それを計算する数値モデルは世界でも昨今はかなりある。計算結果、温暖化の程度はさまざまであるが、そのどれによっても熱帯地方の温暖化の程度は小さく、寒帯・極地方で大きい。この点はどのモデルによっても同じである。
日本は細長い南北に連なる島々からなる国である。だから、南西諸島と北海道では、温暖化の程度・状態も異なるはずである。これまでの観測記録ではどうなっているか、少し調べてみた。
2010年夏の異常高温
2010年の猛暑・酷暑、その異常高温の実態とその影響についてはこの連続エッセイですでに何回も書いたが、北海道に焦点をあてながら書いたことはなかった。(図1)は2010年の6月から10月までの北日本(上)・東日本(中)・西日本(下)における日平均気温の5日移動平均値の推移をしめす。
(図1)2010年6月-10月の日平均気温の5日移動平均値の変化。
(上)北日本、(中)東日本、(下)東日本。
(気象庁地球環境・海洋部の資料による)
北日本では6月上旬後半(6日ころ)から、平年より高温となった。東日本・西日本でも上旬には高温になったが、日も多少遅れ、高温の偏差(平年との差)も小さい。北日本の6月中・下旬、7月上旬は高温の偏差は極めてはっきりしている。8月上・中旬、9月上旬まで、その傾向がみられる。結論として、北日本の猛暑・酷暑の期間の長さ、その偏差(プラスの平年差)は東日本・西日本より大であったことが明らかである。
しかし、9月下旬、10月下旬のマイナス(図中、水色でしめす)の偏差の出現は北日本で早く、マイナスの程度も大きい。これは、高緯度地方から北日本に冷気が秋から初冬に向かう季節に侵入するが、それが異常高温の年にもみられ、北日本で最もはっきりしており、1回の程度(マイナスの偏差)は大、期間(日数)は長いことに注目すべきであろう。
2010年8月の北海道
北日本の高温の偏差が顕著であった2010年8月を取り上げその時の状況を(図2)にしめす。
(図2)2010年8月の月平均気温の平年差の分布。平年値は1971-2000年の30年平均。
(気象庁地球環境・海洋部の資料による)
この図は日本における2010年8月の月平均気温の平年差の分布を示す。ただし、平年値は1971年から200年までの30年間の平均値とする。平年値より3℃以上高温であった(図中の赤色)地域は、北海道の東半分、東北地方の岩手県・福島県で、大きくみれば北日本の太平洋側である。西日本はマイナスで、特に九州の西半分、南西諸島で明瞭である。ある特定の年の夏だけの状態ではあるが、上記の数値実験の結果がいう高緯度地域と低緯度地域の温暖化の差と同じ傾向であることは注目してよかろう。
帯広の近年の温暖化
上の図で明らかなように2010年の5月から9月にかけた夏を中心とした5ヶ月の異常高温は、北海道の東半分の地域で特に顕著であった。そこで、十勝平野についてもう少し詳しく調べると、この年に帯広では36.0℃、上士幌では36.6℃(過去の最高気温観測記録)を測定した。(表1)(左)は十勝平野内で最も長い観測記録がある帯広における年平均気温の1896年から2010年までの115年間の観測値を5年ごとに区切ってしめした。
(表1)帯広における年平均気温の長期変動 |
5年の期間 | 5年平均気温 | 時代、年 | 平均気温 |
1896―1900年 | 4.5℃ | Ⅰ、1896―1915年 | 4.6℃ |
1901―1905 | 4.8 | ||
1906―1910 | 4.3 | ||
1911―1915 | 4.6 | ||
1916―1920 | 5.7 | Ⅱ、1916―1945 | 5.6 |
1921―1925 | 5.4 | ||
1926―1930 | 5.5 | ||
1931―1935 | 5.6 | ||
1936―1940 | 5.8 | ||
1941―1945 | 5.3 | ||
1946―1950 | 6.0 | Ⅲ、1946―1985 | 6.1 |
1951―1955 | 5.6 | ||
1956―1960 | 6.1 | ||
1961―1965 | 6.3 | ||
1966―1970 | 6.0 | ||
1971―1975 | 6.4 | ||
1976―1980 | 6.1 | ||
1981―1985 | 6.0 | ||
1986―1990 | 6.8 | Ⅳ、1986―2010 | 6.9 |
1991―1995 | 6.9 | ||
1996―2000 | 6.7 | ||
2001―2005 | 6.8 | ||
2006―2010 | 7.4 | ||
(表1)(右)には5年ごとの気温変化をみて、前後で明らかな差が認められるところで区分(表の中の“点線”)した。第I期は5℃以下の時代で、明治から大正初期の時代、第II期は5-6℃の時代で大正中期から第2次大戦終了までの時代、第III期は戦後で、1985年までの6℃台前半の時代、第IV期は1986年から2010年の地球温暖化が顕著になった時代である。特に、2006-2010年は7.4℃で百年前と比較すれば、3℃もの上昇である。
気温のジャンプ
(表1)(右)の時代区分されたところを専門用語では『気候変化のジャンプ』という。温暖化傾向は直線的、または、なめらかな曲線的に進行するのではなく、ある時期にジャンプして変化する。すなわち、階段状に上昇するという見方である。その原因の解明はまだ十分にはされてないが、次のようなことが考えられる。
(1)地球を取り巻く大気の運動がある時期に変化する。例えば、エネルギーがある程度蓄積したときに、階段状に変化する。海流には“シフト”があり、海面水温がある時期に突然変化し、海水温が海面上の大気に及ぼす影響も階段状に変化する。
(2)都市化・工業化・人口の集積などはある程度の状態を超えないとヒ-トアイランドの形成などへの変化が現れない。いいかえれば、その限界値付近で階段状に影響が現れる。
(3)建築物・構造物が集中する都市域がある範囲を超えると地表面粗度の変化として大気の運動に影響がでる。やはり、影響は階段状である。
(4)地球温暖化により、熱帯低気圧や温帯低気圧の経路・強さ・個数などに変化が現れる。中緯度高圧帯の形状・強弱が変化する。それらの変化は時代的にみると階段状かもしれない。その結果が間接的に気温の時代的な変化に現れる。 以上のことがらを今後研究してゆかねばならない。