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健康天気ことわざ

No.33

2011.08.01

福岡義隆

ひでりにケカチなし

 北日本の方ではコタツを出したくなるほどの氷雨をもたらす梅雨が明けると、かんかん照りの暑い夏が訪れる。朝のうちはどんより曇っているがやがて炎天に見舞われる。「朝曇り女房の腕まくり」とか「ひでりの朝くもり」というのがこれである。この場合の「ひでり」は旱魃のような長期間の現象ではない。せいぜい1~3日という短期間のものである。
 それに対して、冒頭の諺の「ひでり」は言うまでもなく旱魃害をもたらすような長期のものである。ここで「ケカチ」というのは飢饉のことである。ケカチは「毛欠き」が訛ったものであり、毛は穀物・作物のことである。不毛の窪地を意味する「ケカチクボ」という地名が上州(群馬県)にある。「ひでりに不作なし」とも言われるように、ひでりの年は山沢の水に頼る水田では米のできは良いのであって、ひでりに心配する必要はないとされる。
 異常気象と闘い適応させるべく灌漑施設や品種改良など、先人の知恵を学びつつ収穫できた米を心を込めて食卓に運ぶ大切さを考えてみる必要がある。大震災の年だからではなく、常に食料資源を大切にしなければならない昨今である。そんなとき、台湾に伝わる諺に次のような大いに感銘受けるものがあることを知った。

 「一粒の米には、百粒の汗がある」

というのがある。質素な昔の倹約に関する諺の一つである。特に、今日の台湾のお寺では、仏教の教えとして、ご飯は一粒残らず食べることを信者に勧めているという。終戦直後、筆者の小さいころには、「米粒一つでも無駄にしたら目が潰れる」と窘められたものである。米を作ってくれたお百姓さんの苦労に感謝しなさいと言うことである。まさに一粒一粒の米粒に農民の汗があるということなのであろう(陳宗顕、1994)。
 食卓に盛られたお米中心の料理を残すことなく全部食べることも大事ではあるが、お腹がいっぱいなのに無理に食べるとむしろ体に悪い、それよりも、貧しい人たちのために残してあげるという習慣がインドなどにあることも無視できない。国際会議などでインドでのパーティに参列したことがあるが、会場の裏口に貧しい階層の人たちが並んで待っているのも目の当たりにしたことがある。派手な婚礼などでの食べ残しをゴミ箱に捨てる日本の悪習は早急に改めるべきであろう。
 人一人が食べられる量には限りがあることを言い習わしてきた上州(群馬)の次の諺が注目される。

 一合雑炊 二合粥 三合飯に四合団子 五合餅に一升ネジ

これらの数値が意味することは「一人前一食」の基準量だということらしい。雑炊はほかの種々のものを入れて炊くので米一合でいいという。粥の場合は二合、飯なら三合、餅となると米五合分に相当する。粉食では米粉団子にすると四合だし、うどん粉なら一升という、やや多すぎると都丸氏は言う。なお、ネジというのは団子の一種にたいする方言のようである。四合団子が「四合ずし」、五合餅が「五合強飯(こわめし)」とするところもあるようだ。昨今は副食物が多いので、こんなには食べられないが、昔はこれだけを一人前一食としてスタミナ補給をしていたのであろう。
 利根川上流域のある集落では二合五勺の枡があって、これが一人前一回の分量であったとされる。
 ところで、上記の「朝曇り女房の腕まくり」「朝雨は女の腕まくり」とか「朝霧の深きは晴天の兆し」など地方によって少しずつ表現は異なるが、ほぼ同じような天気の変化を予想した諺である。ここで女房の腕まくりは、昨今はあまり見かけない。TVなどの天気予報で判断しているせいもあるし、朝起きて曇ってたり霧がかかっていればおおよそ布団や洗濯物を干す気にはなれないだろう。かりにこれらの諺の意味を知っていたとしても腕をまくってまで精を出すのもまず稀で、なぜなら昨今の紫外線情報のほうを重視し、肌の予防やら皮膚癌への心配の方が優先されるからかもしれない。これらの諺のような局地的な天気の変化は、海岸地域では陸風から海風に替わるときにできる薄雲か海風前線に伴う海霧の様子に対応し、やがて海風が卓越する日中は晴天となる。しかし内陸では山麓近くに朝方残っている放射霧による薄曇りがやがて谷風・川風の卓越する日中は晴天に恵まれて、ベランダに洗濯物や布団が色鮮やかに干されるのである。

文献:
都丸十九一: 『上州ことわざ風土記』 (上毛新聞社、1980)
陳 宗顕: 『台湾のことわざ』 (東方書店、1994)


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