健康天気ことわざ
No.10
2010.09.13
福岡義隆
梅を望んで渇きを止む
中国の故事名言集にあるこの寸言は、もともとは魏の曹操の機略に由来するものである。その意味は、梅の実のすっぱさを想像して唾を出し、喉の渇きを一時しのいだという故事から、空想によって安らぎと慰めとを得ることをいう。戦時中の貧しい農村の学童が持参する弁当に梅干が日の丸のように一つ入ってるだけというのがあったが、もっと貧しいのになると何も入ってないまずそうなご飯だけの子がいた。落語にもよくあるように隣の日の丸弁当の梅干を眺めながらすっぱくなった口にご飯を放り込むという子もいただろうと想像する。空想だけでは滋養にならないが、梅は健康に良いことはこれまでにも述べてきた。
今年の梅雨季から夏のように異常な猛暑続きで、昨年の倍以上の勢いで熱中症が発生してすでに多くの死亡者が出ている。猛暑は食べ物を腐食させやすくする。食中毒にも梅は抑制効果がある。 食中毒も含め、梅が持っている種々の健康予防効果は次のとおりである。
①胃癌抑制効果:梅の中に、ピロリ菌の増殖抑制や胃粘膜への感染防御に有効な物質があることが分かった。その有効成分として、梅リグナンの一種であるシリンガレシノールも明らかにされた。
②食中毒防止:梅にはまた、黄色ブドウ球菌や病原性大腸菌O-157と言った食中毒菌の増殖を抑制する作用があることが判明されている。
③血液をサラサラする効果:血液中の脂質が血液中に多くなると高脂血症になってドロドロ血液になると言われています。梅にはアンギオテンシンIIによる動脈硬化の発生を抑制する作用があるので、梅干はこのドロドロ血液をサラサラ血液にする効果があるとされている。
インターネット情報Life Science 72:659-667 (2002)より
④糖尿病防止:梅を肥満糖尿病モデルラットに投与すると体重が減少し、血糖が低下することが明らかにされた。この梅の血糖低下作用成分は梅に含まれるポリフェノール類が関与しているとされている。
以上のことからも、「毎日梅干しを一個食べれば病気はしない」と言うのは的を得た名言である。遠足で作ってくれたおふくろの梅干入りおにぎりは、もっともシンプルで経済的で健康への心遣いでもあったわけである。
なお、「梅干に鰻の食べ合わせ」はお腹によくないといわれるが、医学的には根拠ないとされている。ただし立秋前18日の「夏の土用に鰻を食べると夏ばてしない」というのは本当のようだ。
文献:小学館・上海人民美術出版社編『中国の故事名言』(1983年)