健康天気ことわざ
No.41
2011.11.21
福岡義隆
頬がほてると雪になる
冒頭の諺は特に長野県上田市あたりで言われるようです。人体の異常から雪を予想する類似の諺には、同じ長野県で「傷が痛めば雪が降る」とか「皸(あかぎれ)が痛むと雪」あるいは「しもやけがかゆい時は雪」などいろいろな症状で降雪をうらなってきた伝承が残っている。梅雨時の「古傷が痛むと雨」に似たところがある。
降雪の予兆は人間の健康からばかりでなく、動物の生態が雪を占うものも各地でみられる。いくつか例をあげてみよう。新潟でよく言われるものとして、「猿が早く里に出る年は雪が早い」とか「リスが餌を早く探すと大雪」あるいは「鼠が早く土中に隠れると大雪」などあり、長野県には「鳥が群れて乱れて鳴けば雪」とか「鳥が高いところに巣を作れば大雪」あるいは「蟷螂(かまきり)が枝の下側へ巣を作ると雪が多い」など枚挙にいとまがない。
とくにカマキリの生態から大雪を予想できることを長年の調査で明らかにされた酒井與喜夫氏の著書『カマキリは大雪を知っていた』は興味深い。その研究で工学博士号を取得したという酒井氏によると、種々の動物による予兆能に比べ、カマキリは一枚上手だと経験から自信もって褒めちぎる。カマキリの卵のうの位置で雪の多少まで言い当てられる達人であるが、その特徴・利点をまとめていて、これらの条件から雪予報が可能となるらしい。
① 卵のうという生きた証拠が翌年まで残っている
② 産卵場所が容易に見つけられる
③ 植林されたスギの木に多くの産卵が見られるので、同一条件下でのデータ収集が可能
④ 人家に比較的近くで産卵するので、積雪との比較がしやすい
⑤ メスは産卵期が近づくとお腹がふくらんで飛行困難になる。そのため樹上で産卵する際に、雪の深さが判断しやすい必要最低限の高さを選んでいる可能性がある。
これらの条件に付け加えて、林相や地形などで補正してやると、卵のうの高さからの最深積雪の予測制度はかなり上がる。80%近い確率で雪の長期予報に使えるようである(図参照)。
動物の健康状態から天気を言い当てる技は各地・各国にあるようで、ドイツからアメリカにきた移民の伝統をちょっと紹介しよう。ドイツの移民がガチョウの胸骨を使って冬の天候の厳しさを予知する伝統をアメリカに持ち込んだと言う。薄い骨は穏やかな冬を、厚い骨は厳しい冬を、白い骨は雪が多いことを、そして赤みがかると気温が低くなり寒くなることを言い当てていると言う。
図 酒井與喜夫『カマキリは大雪を知っていた』より
文献:
酒井與喜夫著:『カマキリは大雪を知っていた』(農文協、2003)
リティネツキー著・金光不二夫訳:『天災を予知する生物』(総合出版、1983)