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健康天気ことわざ

No.44

2012.01.02

福岡義隆

正月の伝統料理にみる健康秘策

三が日過ぎたる鯖の味噌煮かな   草間時彦
松過ぎの黄粉餅して老夫婦      遠藤梧逸

 健康に関する天気ことわざに拘ったエッセーを、と思い立って20ヶ月にもなる。二度目の正月を迎えるにあたって、諺ではないが正月の日本的伝統料理から健康を考えてみようと思って櫂未知子さんの『食の一句』を開いてみたら、一月の句の初っ端に上記2句が眼にとまった。適当な諺が思いつかないときは類想の川柳か俳句を紐解いて、後世に諺のような形で残しておきたい味のある句を発掘するようにしている。
 ファーストフードやエスニック料理を食べている人でも、正月三が日ばかりはほぼ同じようなものを食べているものである。すなわち正月料理である。とくに元日の雑煮は九割以上の人が食べているようである。正月も三日を過ぎるとそろそろ「ふつうのもの」を食べたくなるものである。理由のひとつに正月料理の大半が冷たいものばかりだからとも言われる。上記一句めの作者は「鯖の味噌煮」が食べたくなったようで、夏の季語である鯖を、というところが川柳っぽい俳句だと思うが、やはり温かい味噌煮に良さがある。
 正月に餅を食べる風習は、すでに平安時代の記録に残されており、朝廷を始め庶民に至るまで御祝い用に食べていたとされる。一方、雑煮を食べる風習は鎌倉時代末期に遡る。今日では、正月は元旦の朝から始まるように考えられているが、かつては1日の境を夕方とする習慣になっていたので、正月は大晦日の夜から始まるのが慣わしであった。大晦日に歳神をまつり、いろいろと御供え物をする。そして「オセチ」と呼ぶ年越しの食事をした。多くは年越しソバというのを食するが、「細く長く」が年越しソバを食べる意味とされる。ソバには、高血圧の薬としても使われるルチン(ビタミンP)が含まれているので、大晦日のみならず日常的にもっと食べた方が良い。諺的には「ソバを食べると血圧が下がる」とか「ソバは動脈硬化を予防するすぐれもいの」と言われている。蕎麦タンパクが動脈硬化を防いでくれるのである。
 大晦日の神に供えた物を翌朝、すなわち元旦に食べたのが雑煮であったのである。こうして、年の初めに1年の祈りを込めて、各地で手に入る材料を用いた各地に特有の雑煮が食べられたと考えられる。

切り餅雑煮

丸餅雑煮


 全国同じようなものを正月に食べるというのは実は正しくない。雑煮の餅には丸餅と切り餅と二つのタイプがあり、具の材料としては新潟の塩サケ、瀬戸内の塩ブリ、鹿児島のエビなどのように地方によって異なる。関東風の典型的な雑煮は切り餅を焼いて、鰹節でとったダシをすまし仕立てとしたものである。京都の雑煮は丸餅を茹でてコブダシの白味噌仕立てというように、東西で異なるのである。餅は水分を45パーセントも含むので黴が生えやすいものであるが、幸い市販されている餅は無菌的にビニールで密閉包装されたものが多く黴を防いで保存できるようにされている。ビニール包装が無粋と思われる方は、つきたての餅に焼酎をたっぷり塗っておくとアルコールの働きでヒビ割れやカビも防ぐことができると「婆ちゃんの知恵」にある。雑煮はもともと年男が作ることになっており、地方によっては主婦は手をつけないというくらい雑煮というものは神饌であったとされている。
 具の中に、昨今は鶏肉やハムなども入れるが、もともとは日本の伝統料理は野菜や穀物が主流で難消化かつ繊維性のものであった。穀倉民族は肉食民族に比べて排便量が多いために、これらを処理する腸や管が長く、日本人が胴長体形であるとされる所以である。1月7日には七草粥、15日には小豆粥を食べ、1年中病気にかからぬように願っていた。

 高齢化社会の正月、よく餅がのどにつかえて呼吸困難からひどい時には死を招く恐れがある。そんな時のお婆ちゃんの知恵、「お餅がつかえたら大根おろし」を思い起こそう。

文献:
櫂未知子:『食の一句』(ふらんす堂、2005)
樋口清之:『日本人の言い伝えものしり辞典』(大和出版、1978)
早島妙瑞:『田舎のおばあちゃんの生活事典』(日東書院、1999)


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