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健康天気ことわざ

No.50

2012.03.26

福岡義隆

健康と病気に関する天気俚諺 ~まとめに代えて

はじめに

 自然との共生に根ざした東洋文明では、伝承されてきた生活の知恵が種々の形で特に生かされてきた。その一つが健康医学に関する諺である。諺には、先人の知恵や自然のしくみに学び、健康・病気や日常生活に生かすための人生哲学が語られている。 諺の特徴は次のようにまとめられる。(1)起源は、「話し言葉中心」の社会の産物である。(2)何らかの真実を言い当てている。(3)たくさんの人びとの経験の集約である。(4)ある社会のある時代の産物である。(5)流通性あるいは伝達性が強い。(6)生き物のような特徴をもつ。 一方、健康医学に関する諺は、ほぼ4つに分けられる。(1)かなり科学的根拠があり、生気象学的にも実証可能なもの、(2)経験的・統計的に成り立つが、地域的・季節的に異なるもの、(3)偶然的で可とも非とも言えるもの、(4)迷信的で、滑稽さや風刺的で科学的根拠のないもの、である。

諺の分類

 諺の分類は極めて難しく、多くの研究者が試みてきた。比較的によく受け入れられているものは柳田国男による分類で、「綜合日本民俗語彙」第五巻にでている。すなわち、(1)総称、(2)比喩・形容、(3)批評・嘲笑、(4)道理・知識・発見、(5)忠告・訓戒、(6)吉凶、(7)天候、(8)農業、(9)海の生業、(10)慣習、(11)口合い・軽口、の11であるが、総称を除くと10分類と言える。この分類はまだ検討が必要と思われる。その理由は、(2)(3)と(4)(5)(6)、(7)(8)(9)、(10)(11)はそれぞれグルーピングされた中に見られるジャンルの違いが大きいこと、各グループ間の中で関連しあっていて、因果関係のあるものが別項目に分類される場合がありうるなどである。

諺の目的・効用による分類

 諺は目的・効用を根拠として分類するとか、形式的な違いによって分類した方がよいと思われる。前者の立場による諺としては、(1)攻撃的諺、(2)経験的諺、(3)教訓的諺、および、(4)遊戯的諺に分類される。ここで、健康・病気の諺は、主として(2)と(3)に見られる。具体的な諺の例をあげると次のようなものである。 すなわち、(1)攻撃的諺としては「なまけ者の節句働き」、「下手の道具しらべ」、(2)経験的諺としては「東男に京女」、「見半作水」がある。また、「船ばた三里帆影八里」(海面から離れた高い大気層ほど視程距離は長い)。(3)教訓的諺としては「自然は最良の教師なり」、「石の上にも三年」とか「時は金なり」などたくさんの例がある。(4)遊戯的諺としては「犬が西向きや尾は東」(ものには必ず原因がある)、「月とスッポン」(雲泥の差)などがある。

諺の形式による分類

 形式による分類として、(1)比喩的形式、(2)対句的形式、(3)逆説的形式、(4)数字名詞羅列形式、(5)誇張的表現形式、および、(6)七五調五七調形式がある。(6)には一茶の俳句や江戸古川柳などに由来する諺が多く、(1)、(3)、(5)とともに健康・病気の諺が比較的多い。

健康・病気・天気諺の分類の試み

 諺の内容による分類は、青木慶一郎による詳しい分類(4)(5)がある。しかしそこでは健康・病気に関するもの、農業に関するものが独立して扱われていないので、表1に示すように改定を試みた。諺の数は非常に多いので、具体的に別の詳しい表を作成する必要性がある。

表1 福岡による健康・病気・天気諺の分類

大分類中分類小分類 事象  
       
人間生活 行動 子供の騒ぎ  女房の腕まくり  女の心 など
  衣食住 梅干  赤飯  台所  鬼門  土足 など
  体感 不快  神経痛  三寒四温 など
  暦事・節気彼岸  十五夜  入梅  土用  など
  健康 夜爪夏風邪高血圧
  農業 豊作旱魃鎌とぐ
  漁業 大漁漁夫の利 腐っても鯛
       
生物動物哺乳類 犬  猫 
  鳥類 鳶  烏   鷹  雀 
  魚類 鯉  鯰  
  昆虫類 蜘蛛  蟻  蜂 
  その他    
 植物天然 青葉  紅葉  桜前線
  栽培 植木  盆栽  等
       
物理現象 天気 温度  湿度  風   気圧  等
  地象 地震  火山  温泉
  水象 海  湖  沼 
  天体・光象流れ星  虹  朝焼け

天気の諺における健康・病気

 天気の諺(または天気俚諺)は古来、観天望気として各地に多く伝承されているが、その中で健康・病気に関するものはきわめて少ない。たとえば栃木・群馬両県内における約2400の天気の諺のうち、僅か19諺(1%弱)だけが健康に関するものであった。長野県(信州地方)の天気の諺もやはり少なく、約0.5%しかない。季節的には、梅雨季に集中している。使用頻度10位の「あかぎれが痛むと風が吹く」(群馬)は冬の季節風“空っ風”に関係する。 諺には日本国内ばかりでなく外国にも同じようなニューアンスの「普遍的な諺」がある。やはりその土地でしか言われていないものが多く、表現が局地的であることが少なくない。その意味で、諺には種々の地域・空間的スケールに関連しているものがあることは確かである。諺の地域性についての都丸十九一の興味ある分類がある。 (1)ある土地に即した諺、とくに天気に関する諺は、当然ながら地域性や風土性がある。例えば「上州名物、かかあ天下に空っ風、女の腕まくりは、夜になれば止む」 (2)処世とか比喩や批評・しゃれなどは一般的には地域性が薄いが、それでも狭い範囲の局地性がある。例えば、「ヨシキリが土用に入ったようだ」(湿地が多い地域で、アシの茂みのある地方で、ヨシキリが土用に入ってぴたりと囀りをやめること)(3)その土地の生活が如実に出ている諺で、地域そのものを捕らえているもの。 (4)一般的・中央的(都市的)・標準的な諺を、地域に即し、生活に即したように言い換えたような諺。

健康・病気俚諺における天気

 健康に関する諺も、飲食や生活環境に関するものなどを含めると非常に数多くある。その中で天気との関わりは『暮らしの健康ことわざ辞典』によると全体の800諺中の約40(5%)である。季節的には冬と夏に多く、後者では特に梅雨季に多いのが特徴である。『健康ことわざ111』によると、111中の4だから3%強、『健康ことわざおもしろ読本』9)でも約3%しかない。いずれも季節的には冬と夏である。使用頻度が30位内にあっても、栃木のように健康諺が皆無のところもある。

文献:
宇津木保:『ことわざの心理学』 (ブレーン出版、1984)
柳田国男:『綜合日本民俗語彙、定本柳田國男集』 (筑摩書房、1971)
福岡義隆・吉野正敏:『健康と病気に関する天気俚諺とその季節性、 地球環境』 (2011)
青木慶一郎:『栃木のお天気諺』 (下野新聞社、1990)
青木慶一郎:『群馬のお天気諺』 (上毛新聞社、1986)
都丸十九一:『上州ことわざ風土記』 (上毛新聞社出版局、1980)
西谷裕子:『暮らしの健康とことわざ辞典』 (東京堂出版、2009)
米山公啓:『健康ことわざ111』 (家の光協会、1997)
有吉堅二:『健康ことわざおもしろ読本』 (青年書館、1995)
福岡義隆:『健康と気象』 (成山堂、2008)


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